週刊「水」ニュース・レポート    2013年5月22日号

 

 

 

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5月19日、20日に、タイ北部の都市チェンマイで、「第2回アジア・太平洋水サミット」がタイで開かれました。

タイのインラック・シナワット(Yingluck Shinawatra)首相は講演で、

「資源をめぐる争いが生じる可能性がある」とし、「この地域のいずれの国も、独力ではこれらの課題に対処することはできない」と述べました。

これはメコン川の持続的な水利用を指したもので、発言を読み解くには、メコン川をめぐる水事情を知る必要があります。

メコン川は、チベット高地の源流から5000メートルの高さを流れ下ります。中国の雲南省を通り、ミャンマー・ラオス国境、タイ・ラオス国境、カンボジア・ベトナムを通り南シナ海に抜けます。合計6か国を流れる国際河川。国際河川をもたない日本人が、もっとも理解しにくい水事情があります。

流域諸国にとってメコンは母なる川と呼べるほど、その生活は大きく依存しています。

たとえば、ラオスでは水力発電量の半分をメコン川に依存し、タイでは耕地の50%が流域に存在します。

ベトナムではメコン・デルタが米生産の半分以上、GDPの3分の1を生み、1700万人の居住地となっています。

1995年、下流域のタイ、ラオス、カンボジア、ベトナムの4か国は、お互いの河川利用に関する利害の調整を図るために、国際組織「メコン川委員会」をつくりました。

委員会は一定の成果を上げています。90年代に、水利用をめぐって、タイとベトナムが対立したことがありました。タイがダム建設による電源開発を進めた際、下流に位置するベトナムは、

 

  • 「上流の開発のために川の流量が減り、塩害が起きて困っている」

とダム建設の中止を求めました。

しかし、タイは「自由な水利用」を譲りませんでした。

この時、メコン川委員会が両国の主張を調整し、本流へのダム建設は凍結されました。

ただ、この組織には大きな問題があります。

メコン川の上流に位置する中国とミャンマーは未加盟(オブザーバー参加)なのです。

下流に位置する4カ国だけで協定を結んでも、上流国の行動を抑止できないので根本的な解決は図れません。

そうした事情が、今回のシナワット首相のスピーチにつながっていて、中国の動きを牽制するねらいもあるのでしょう。

中国はメコン川上流にダムを建設し、下流域に大きな影響を与えています。

流砂サイクルの断絶により肥沃な土地は減少し、メコン・デルタは縮小しつつあります。

このままでは流域の河岸侵食は著しく進み、メコン川の流量が激減し、汚染が進むでしょう。

ただ、中国で話を聞いてみると、メコン川を国際河川とは認識している人はほとんどいません。

 

  • 「瀾滄江(ランソウコウ)という国内河川」

という認識なのです。

 

  • 「自国内の水を使うのは主権の範囲」と、大規模ダム計画を着々と進めています。

さらに中国政府は、

 

  • 「雲南省のダムは発電用で、メコン川の総流量は変わらない。水害を防ぐ観点から、上流で水量を調節することは下流国のためになる」

と主張しています。

しかし、メコン川の下流の暮らしは大きく変わりました。

タイ・ラオス国境地帯では漁獲量が激減しています。水量が減り、タイの穀倉地帯では水不足が深刻になっています。少なくなった水を工業と取り合い、水資源が限られて生産量は頭打ちです。

ベトナムのメコン川下流地域では南シナ海の海水が逆流する現象まで起きました。そのため淡水養殖場の魚が大量に死に、水不足で農作物も枯れています。

下流域の国は「中国が上流に造ったダムが異常渇水の原因」と見ているますが、中国は、「メコン川支流の低水位はタイ北部やラオスの干ばつによるもの」「上流のダムは持続可能な発展戦略を実施し、下流各国の利益を十分配慮している」と否定しています。

ここは「メコン川委員会の出番!」と言いたいところですが、オブザーバーに対する発言は控えめです。中国に水利用の改善を求めながらも、「渇水は中国のダムだけが原因とはいえない。降雨量不足、流域の人口増加、農業・観光開発、気候の変化なども影響しているはず」などと多角的な見方も示し、緊張の高まりを防ごうという配慮もしています。

さらに中国から経済的な援助を受けるラオス、カンボジアは、ダム原因説への言及すら避けています。流域各国の経済に大きな影響力を誇る中国を相手に、どの国も強い態度を取れないのが実情だったのです。

ですから、今回の発言はかなり思い切ったものであり、メコン川の持続的な水利用について、アジア全体のアジェンダとしたところに意味があると言えるでしょう。水のシェアを真剣に考え、知恵で解決を図れば平和になるというのが、過去の歴史です。

 


 

 

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