週刊「水」ニュース・レポート    2013年6月12日号

 

 

 

【今回厳選したニュース】

 

 


 

 

【ニュースを見る目】

 

「日経ビジネスオンライン」の記事は2ページ以降有料になって見られないのですが、ヤマハ発動機の取り組みについて、以前から注目し取材を続けてきました。ちょっと長くなりますが、詳しくお伝えします。

ヤマハ発動機が採用している浄水技術は、生物浄化法(緩速ろ過)です。ろ過槽の表面に生息する生物群集の働きで水を浄化するので「生物浄化法」と呼ばれます。

この技術は産業革命期のイギリスで発明されました。最初は砂層でゆっくりとろ過することで、きれいな水ができる「物理的な砂濾過」(砂が汚れをつかまえるので水がきれいになる)と考えられていました。

ところが約100年前に、病原菌の除去に微生物が寄与していることがわかりました。砂粒のあいだをくぐり抜けてしまうはずの、小さなウイルスもキャッチできたので、「物理的な砂濾過」ではなく、「生物群集による浄化」という認識ができました。

 

 

  • 2014年には名古屋で「第5回  緩速・生物ろ過国際会議」も開催されます。
  • http://5ssabc.jp/

ヤマハ発動機の事業は、アジア・アフリカの水道のないエリアをターゲットにしています。生物浄化法プラントを用いて、川の水を浄化し、飲用可能な水をつくり、住民の生活向上に役立つことが目的です。

事業のきっかけは1993年にさかのぼります。

モーターサイクルのインドネシア工場が設立され、日本から大勢のスタッフが現地に駐在しました。ところがジャカルタの水道水の評判がすこぶる悪かったのです。

 

  • 「まずい」
  • 「とても飲めたものじゃない」
  • 「何とかしてくれ」

こうした駐在員の声に応え、最初は、中型の家庭用浄水器を独自に開発し、設置したました。

あるとき当時の浄水器事業のトップが、浄水器を水道のない地方に設置し、川の水や地下水を浄化したら社会貢献になるのではないかと考えました。

インドネシアの水道普及率は都市部で40%程度(当時)でした。

地方では地下水や川の水を利用する生活が当たり前です。インドネシアの川を流れるのは、濁度の高い泥水です。汚れの原因は、砂、泥、家畜のし尿。川岸近くに豚小屋、牛小屋があり、川で家畜に水浴びをさせます。その川下では、岸辺から川岸へと延びる木製の台のうえで、食器、コメや野菜、体を洗います。ときにはそこから小便や大便をします。

途上国ではごく当たり前の光景です。

そうした川の水を大型の家庭用浄水器で浄化しようと考えました。

しかし、ダメでした。

その浄水器は、砂と活性炭で濾過するタイプで、土色の河川水を浄水することはできましたが、砂と活性炭がすぐに目詰まりしてしまいました。

これでは、ろ材を頻繁に交換しなければなりません。

 

  • 「この方法は適さない」

浄水器事業のトップは、すぐに気づきました。

 

  • 「どうしたら濁った川の水を飲用可能な水にできるか」

90年代の後半から、プロジェクトメンバーが、インドネシアの地方の状況や、さまざまな水供給システムを研究しました。

その結果、貧しい村落に最適なシステムとして、生物浄化法(緩速ろ過)に注目したのです。

メンバーの1人が信州大学の中本信忠教授(現名誉教授)の研究論文によって生物浄化法(緩速ろ過)の特長を学び、日本国内の施設を見て回りました。

その結果、メンテナンスが簡単で、電気や薬品を使わずに管理運営できるこの方法が、「最適」という結論に達しました。

2000年6月、インドネシアに最初の生物浄化法(緩速ろ過)プラントができました。コンクリート製の小型パイロットプラントで1日の給水量は25トン。給水システムのノウハウを取得することと、地元の住民による自治運営の可能性を検証するのが目的でした。

やがてコンクリート製のパイロットプラントの小型化を図り、02年には、運びやすく設置しやすいコンテナ型プラントの試作機(1日の給水量は15トン)がつくられました。

世界中で水道や公共水栓の無い生活をしている人は約35億人います。そのうち地下水や雨水貯水など改善された水源にさえ利用できない人は約11億人います。そのうち6億人がアジアに、3億人がアフリカにいます。

そして彼らの多くが不衛生な川の水を飲んでいます。そうした地域に、生物浄化法(緩速ろ過)の浄水装置を提供できれば、水環境は改善されます。

これまで地下水を利用している人でも、乾季になると井戸が枯れて水が利用できなくなる人もいます。そういうときは遠くまで水をくみに行かねばなりません。もし近くの河川水が飲めるようになれば、多くの人が水くみという重労働から解放され、生活が変わるでしょう。

コンテナ型のモニター機は、コンテナ(およそ6メートル×2.5メートル×2.5メートル)2つを縦に積み重ねたものです。

最大のメリットは輸送のしやすさにあります。使用するタンクやパイプ類をコンテナに詰め、トラックでインドネシア国内へ、また船で諸外国へ輸送することができます。

モニター機は、03年〜06年に、インドネシア、スリランカ、カンボジア、ラオス、ベトナム、ミャンマーの6か国に10台設置され、技術的な課題、維持・管理の課題を調査分析しました。

コンテナ型モニター機は、1日に15トンの給水が可能で、世帯数200〜500の村落や中規模病院にも対応しました。

水の用途は飲用、調理用です。病院では、そのほかに手術道具の洗浄、新生児の産湯、患者のシャワー用などにつかわれました。

モニター調査を経て、08年7月、改良型の生物浄化法ユニットが完成しました。

基本的な技術コンセプトは変わりませんが、管理しやすくしたこと、粗ろ過工程を追加したことが特徴です。

以前のタイプでは、雨季に河川水に混じる砂や礫のツブが大きくなると、ろ過槽が詰まりやすくなりました。

そのため日本の技術者、現地の技術者ともに、

 

  • 「緩速ろ過のメリットはわかるが現実的には機能しない」」

という意見が多くありました。

しかし、粗ろ過槽を設置することで、ろ過槽の目詰まりを防ぐことができました。

実際、メコン川の茶色に濁った水でも目標濁度1以下を達成しています。たとえば第1槽で濁度174、色度1370だった水が、第7槽では濁度1、色度18に低下しました。この変化は見た目にも明らかで、コーヒー牛乳のように濁っていた水を透明な水に変えててから、最終の浄水工程に受け渡します。

じつは日本の多くの水道技術者は、生物浄化法(緩速濾過)は濁度の高い水を浄化することはできないと考えています。ですが前処理槽をつけることにより、その弱点を克服したのです。粗濾過が十分だと、緩速濾過に流入する原水、浄水ともに安定します。

こうしたアジアでの試行錯誤を経て、ヤマハ発動機は、記事にあるようなアフリカでの設置にいたりました。

生物浄化法(緩速ろ過)による国際貢献はJICA(国際協力機構)でも行われています。JICAの「草の根技術協力事業」というソフト的な技術協力で、水に困っている発展途上国に生物浄化法(緩速ろ過)の技術、その維持・管理技術が提供されています。

生物浄化法(緩速ろ過)は電気、薬品を使用する必要もありません。ヤマハ発のケースではポンプでの水のくみ上げと電解殺菌に電気が使われましたが、水を装置に引き込む際に、土地の高低差(位置エネルギー)を使えば無動力で動きます。

装置本体についても、レンガやプラスチックケースなどでつくるケースもあります。簡単な理屈さえ理解すれば素人でも簡単にできます。

実際、ナイジェリア人が日本の生物浄化法(緩速ろ過)浄水場を見学し、1年後に自力で緩速濾過の浄水場をつくったケースもあります。この浄水場は、ニジェール川の河口デルタの支流から取水し、ポンプの動力には太陽電池を使用しています。

途上国で生物浄化法(緩速ろ過)が普及すれば、安全な水を飲めるようになり、水問題の1つが解決することになります。こうしたことから、いまこの技術が再び注目されるようになったのです。

 

  • 日本では生物浄化法(緩速ろ過)に関する知見は、NPO法人地域水道支援センター
  • http://www.cwsc.or.jp/

がもっています。

 


 

 

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