週刊「水」ニュース・レポート    2014年1月22日号

 

 

 

【今回厳選したニュース】

 

  • 「水の国フォーラム開催/水田を活用した地下水かん養の可能性」
  • (橋本淳司)

 


 

 

【ニュースを見る目】

 

1月25日、熊本市の「くまもと森都心プラザ」で「水の国フォーラム」が開催されました。地域の地下水を、市民・行政・企業が協働して守っていくことを参加者が確認し、「水の民“恊働”アピール」を宣言しました。

「水の民“恊働”アピール」とは次のようなものです。

 

  • 地下水は、みんなで守りみんあで使う「公共水」ということを忘れず、未来の子どもたちに豊かな「水の国くまもと」を届けるモン
  • 地下水を育む地元のお米をいっぱい食べて、たくさん地下水をかん養するモン
  • 「くまもとグリーン農業」で採れた農産物をたくさん食べて、きれいな地下水を守っていくモン
  • 雨水を貯めて庭の水まきや洗車に使ったり、お風呂の残り湯を洗濯に使ったりして、節水をがんばるモン
  • いろんなところに行ったときには、熊本の水の魅力をいっぱい伝えるモン

私たちは、水の国の住民「水の民」として、この5つのことをみんなで実行していくと約束するモン

 

文面(「モン」という語尾)からお気づきかもしれませんが、「水の民“恊働”アピール」には「くまもん」もやってきて、大変盛り上がりました。

 

さて今日の「水」ニュース・レポートでは、「水の民“恊働”アピール」が行われるに至る経緯をふりかえります。

2010年、熊本県は所管33か所の地下水位観測井戸で水位を測定し、1989年の水位と比較しました。

その結果、熊本周辺地域、阿蘇外輪山西麓の台地部で、14の井戸のうち12の井戸で水位が減少していることがわかりました(水位の低下はそれぞれ約5m)。

熊本県では生活用水の約8割が地下水。とくに熊本地域(熊本市、菊池市の旧泗水町と旧旭志村、宇土市、合志市、大津町、菊陽町、西原村、御舟町、嘉島町、益城町、甲佐町の11市町村からなる地域)は地下水依存度が高いのです。

地下水位低下の主な原因は、水稲作付面積の減少と推察されています。

熊本地域の地下水涵養量は年間6億4000万tで、そのうち3分の1を水田が担います。とくに白川中流域の水田は、他の地域に比べて5〜10倍の水を地下に浸透させます。

熊本地域の水稲作付面積は1990年の1万5000haから2011年に1万haになりました。このことが地下水減少の主原因とされています。

そこで地下水位回復を狙い、かん養事業がはじまりました。協力農家に、稲作を行っていない時期に田んぼに水を引いてもらいます。その費用は地域の水を利用する企業等が負担します。

転作田でも地下水かん養はできます。 もともと田んぼなので畦は残っています。たとえば春ニンジンの収穫と冬ニンジンの作付けの間に水を張ります。

大規模な地下水かん養を行うには、冬期田堪水(冬みずたんぼ)も有効とされています。この場合、収穫後の田んぼに水を入れ、春まで張り続けます。

冬期田堪水のメリットはいくつか報告されています。

まず、冬の田んぼに水を張ると菌類やイトミミズ、水鳥等多くの生物のすみかとなります。水鳥の糞はリンを多く含み、肥沃な土壌をつくります。稲の切り株やワラ等の有機物は菌類によって分解され、肥料となります。

イトミミズは田んぼの有機物を分解しながら自らのエネルギーとして活動し、泥の表面に糞を出します。菌類と糞が適度に混ざり合った泥の粒子は肥沃な層を形成します。また、蛙の産卵も活発になり、害虫駆除が期待できます。

このため肥料、農薬量を抑えた米づくりができます。

こうしてできた地元の農産物を市民が食べます。すると市民は地下水かん養に協力することができます。

 

さて、現在、日本の食料自給率は約4割で、多くを海外からの輸入に頼っています。農産物をはじめとする食料生産には大量の水が必要であるから、食料を輸入するということは、国内で生産していれば必要であるはずの水を、食料輸出国に依存しているという見方ができます。

輸入品目は、小麦、大豆、トウモロコシ等の穀物が中心です。

穀物消費は大きく2つに分けられます。

1つは主食として直接消費するケース。 たとえば食パン1斤つくるには小麦粉約300gが必要であり、それを生産する際には水630?が必要となります。

もう1つは飼料として使用し、畜肉や酪農品として間接消費するケース。たとえば鶏卵1kgを生産する場合、必要なトウモロコシは3kg、鶏肉1kgで4kg、豚肉1kgで7kg、牛肉で11kgとなります。 トウモロコシ1kgを生産するのに必要な水は2000?であるから、鶏卵1kgを生産する際に必要な水は6000?、鶏肉1kgで8000?、豚肉1kgで14000?、牛肉1kgで22000?と概算できます。

日本は年間に消費する1600万tのトウモロコシのほぼ全量を輸入しています。

2011年までは9割以上をアメリカから輸入していましたが、2012年に入って様子が変わりました。アメリカが干ばつに襲われたためです。2012年6月、アメリカの穀倉地帯といわれる中西部を中心に、国土の6割で干ばつ被害が発生しました。8月以降、トウモロコシ、大豆の価格は史上最高値を記録し、小麦もそれに迫りました。

 

しかしながら、比較的降水量の多い日本では、食料生産を行いながら地下水を増やすことができます。とりわけ生物多様性も実現する水田の活用は注目すべきです。

今後深刻化する世界的な食料不足、水不足に対し、世界最大の食料輸入国である日本はどう備えるべきかを、私たちは熊本から学ぶべきです。

家畜のえさにする飼料米、小麦の代わりにする米粉用米の生産が増えれば、トウモロコシや小麦の輸入を減らすことができ、さらに地下水涵養もすすまうなどメリットがあるのです。

飼料米を食べた牛は「エコメ牛」と呼ばれ、東京都内のレストランでも活用され、話題になっています。大手町にあるフレンチレストラン「ラ・カンパーニュ」の北岡飛鳥シェフは、「フランスのブランド牛シャトレー種に負けない、サーロイン自体のうまさが際立つ味わい。油部分がまろやかで甘みのある香りが素晴らしい」とエコメ牛を評しています。

熊本の人は、エコメ牛を食べることで、地元の地下水かん養に協力できるのです。

熊本の取り組みは、多くの自治体の参考になるでしょう。