週刊「水」ニュース・レポート    2014年3月5日号

 

 

 

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今日は、緩速・生物ろ過国際会議をとりあげます。

あなたの飲んでいる水道水の浄水方式は何でしょうか?

ふだんはそんなことを考えもしないでしょうが、これはとても大切なことです。

なぜなら浄水方式によって、水の味やかかるコスト、浄水にかかるエネルギーまでもが変わってくるからです。

緩速ろ過は約200年前にイギリスで発明され、公共水道として採用されました。いまでもロンドンは100%この浄水方法です。緩速ろ過は、水をろ過する「ろ過槽」の表面にすんでいる微生物の力で水を浄化することから、「生物浄化法」とも呼ばれます。

日本の水道関係者の多くは、この技術を旧式の物理的なろ過と誤解していますが、実際は違います。誤解の原因は名称にあります。緩速ろ過は英名を「スローサンドフィルター」といいます。「ゆっくり砂ろ過」です。

このため、ろ過層の砂で水をきれいにする物理的ろ過と考えられています。しかし、実際には砂層の表面にすんでいる微生物の働きによって、水のなかの汚れや雑菌を除去していることがわかり、いまでは「生物浄化」という認識が生まれています。

「ゆっくり」も違います。よく「緩速ろ過は水を浄水するのに時間がかかる」といいますが、それは違います。ろ過速度は速い方が、夜間の酸素供給がよいので水質がよくなります。このため英国では、従来のろ過速度を倍にし、1時間に40センチ(1日9.6メートル)のろ過速度に変更しました。面積10メートル×10メートルのろ過池があれば、1日に約1000トンの水が得られます。1日の1人当たりの水使用量を250リットルとすると、4000人の水道需要に相当します。

生物群集が活躍する層を水が通過する時間は、わずか数分ですから「緩速ろ過」ではなく「瞬間ろ過」なのです。実際にはものすごく効率のよい方法だとわかります。

2004年の秋、群馬県高崎市にある剣崎浄水場に行きました。

剣崎浄水場は、明治43年に創設された高崎市で最も古い浄水場です。ここにはかつてビール工場がありました。キリンビールが醸造工場を建設するに当たり、日本各地の水源や水道を調べ、この地を選んだのです。剣崎浄水場では、烏川の水を、群馬郡榛名町の春日堰から取り入れ、土地の高低差を利用して浄水場までパイプラインで運び、生物浄化法で浄化しています。「ろ過池」には、玉石、砂利、ろ過砂が敷きつめてあります。この上に水を流すと、砂の層にすんでいる微生物が水のよごれをとりのぞいてくれます。

浄水場の人が、最終工程で塩素を加えるまえの水をもってきてくれました。口にふくみ、ゆっくり味わうと、ややあまく、すっきりとしています。そのとき私は、緩速ろ過の浄水場でできる水とはこれほどうまいものなのかと感動しました。

一般的に浄水方式には、生物浄化法と急速ろ過があります。急速ろ過は薬品をつかって水をきれいにします。

戦前の日本では生物浄化法の浄水場が多く建設されていましたが、戦後アメリカの技術が導入され、高度経済成長期に大量の水をろ過するために「急速ろ過方式」が普及したのです。しかし、生物浄化法のように有機物やアンモニアを除去能する能力ありません。そこで塩素殺菌を行ないます。また、マンガン、臭気、合成洗剤などは除去できないので、水の味は悪くなります。

急速ろ過は、初期投資はもちろん、電気代、薬品代など維持費が馬鹿になりません。複雑な機器の操作も覚えなければならないし、高価な機器を交換するなどメンテナンスも必要で、10年、20年すると施設更新しなくてなりません。

一方、緩速ろ過は、初期投資は急速ろ過と同じくくらいかかりますが、維持費はほとんどかかりません。長持ちするので、明治、大正、昭和初期に建設されたものが、いまでも現役で稼動しています。

急速ろ過に比べて電気代も少なくてすむし、薬品代もかかりません。メンテナンスは腐った藻や砂ろ過槽にたまった汚泥をときどき取り除く程度です。長野県須坂市では緩速ろ過方式の西原浄水場を8年前に稼動開始しましたが、その後一度も削り取り作業をしていません。微生物がきちんと働く環境が整っていれば、人間が手を加える必要はないのです。

つまり、ローコストで安全な水ができる技術なのです。

広島県三原市の西野浄水場(2004年3月完成)は、もともと急速ろ過と緩速ろ過を併用していましたが、2004年に緩速ろ過一本の浄水場となりました。このような動きはいくつかの自治体で起きています。

宮城県美里町では2008年に緩速ろ過の浄水場が稼働しました。完成した浄水場は、1万1500平方メートルの敷地に4つの緩速ろ過池や活性炭吸着施設などがあり、総工費は約20億円、1日最大で7000トンの水を供給します。

これまで同町は、県広域水道用水供給事業と自前の急速ろ過方式の浄水場で水を賄ってきました。ですが浄水場の老朽化で新しい浄水場が必要となり、引き続き急速ろ過の導入を計画したのですが、地元住民などから反対意見があり、緩速方式を検討しました。そして、建設費が急速ろ過方式と大差がなく、管理や人手も大してかからないこと、さらに昭和初期にできた石巻市の緩速方式の浄水場が現在も稼動中で、耐用年数の点でも優れていることから導入を決めました。

 

こうした自治体は今後、増えていくでしょう。緩速ろ過方式を導入することで、経営改善を図る水道事業者が出てくることでしょう。

 

インドネシアの水道普及率は都市部でも40%程度で、地方では地下水や川の水を利用する生活が当たり前です。流れるのは濁度の高い泥水です。ジャカルタ郊外のカランダ県パシルワール村に緩速ろ過の浄水場があります。ここでは濁度の高い川の水を緩速ろ過によって飲料水に浄化しています。

原水が濁っていると緩速ろ過はできないと考える水道技術者が多いのですが、前処理する工程をつければ、ろ過は可能です。

前処理工程では、熱帯地域特有の濁り水を灌漑用水路からポンプでくみ上げ、沈殿槽を通した後、何段階もの水路を流します。水路上部には藻が繁茂し、光合成によって酸素を出しています。微生物が繁殖し、水中の濁りを補食します。この槽を何段階も連結することによって、濁りがない、酸素豊富な緩速ろ過用の原水ができます。前処理が行われる前はコーヒー牛乳のような色をしていた水が、無色透明に変わっています。

その水を緩速ろ過槽に流します。すると砂層に繁殖した微生物が、水中の浮遊物や細菌、鉄、マンガン、フェノール、アンモニアなどを取り除き、安全な水ができます。

できた水は給水栓によって地域住民2000人分をまかなっています。この装置が導入され、かつて村に蔓延していた下痢や眼病もなくなりました。また管理運営も住民が行っています。

途上国に求められているのは、住民自ら維持・管理のできる水道です。技術的に管理が簡単で、コストが低く、住民が支払える料金で維持できることが大切です。そのためには水源開発費が安い、浄水費用が安いことが大切でした。

これは途上国に限らず、日本の水道事業にもいえることです。大型ダムを建設して行うのではなく良質な水源を確保すること、高度な浄水処理施設よりも緩速ろ過などの簡素な施設を工夫して使うことが大切です。

小規模浄水場は無理にエネルギー消費量の多い最新式の浄水場に切り替えるのではなく、生物の力を利用して、安全な水をつくる緩速ろ過にするほうが賢明です。

緩速ろ過は維持・管理も比較的容易で、コストも消費エネルギーも少ない。各地の水道事業者が急速ろ過から緩速ろ過に戻すのは、安全な水を次世代まで供給していくうえで、前向きな選択といえます。

 


 

 

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