週刊「水」ニュース・レポート    2014年3月19日号

 

 

 

【今回厳選したニュース】

 

  • 「水循環法、成立へ  参院先議で月内にも」
  • (産経新聞  2014年3月19日)

 


 

 

【ニュースを見る目】

 

国内の水資源の保全を目的とする「水循環基本法」がいよいよ成立しそうです(僕はそう言い続けて、すでに3年が経っているので、最後まで気は抜けませんが)。

参院で先議し、委員会に付託せずに20日の参院本会議で採決、衆院に送付することで合意しました。

昨年の通常国会で各党が賛成し、衆院を通過していたため、審議時間をかける必要はないと判断されたようです(通常国会の衆院本会議で全会一致で可決したものの、参院で安倍晋三首相への問責決議が可決された影響で審議未了のまま廃案)。

衆院では26日にも審議入りし、法案は月内に成立する公算が大きいとされています。

これによって、水は「国民共有の貴重な財産」と位置付けられることになります。

現在は法律で規制されていない地下水も、国や自治体の管理対象に含められることになります。

 

しかしながら、「水循環基本法」の制定までは紆余曲折がありました。

超党派の国会議員や学者、市民らでつくる「水制度改革国民会議」が設立されたのは、いまから6年前、2008年6月3日のこと。生命や財産を守る水の重要性を位置づける基本法の制定を目指しました。

河川の生態系を守ったり安全な水を飲むには、河川だけでなく森林など周囲の環境を保全する必要があります。

しかし、水道や河川、森林など、対象によって法律が分かれていますし、複数の省庁にまたがる問題が発生したとき責任が不明確で、対応も遅れがちでした。

「水制度改革国民会議」の代表に就任した松井三郎・京都大名誉教授は「いくつもの法律と省庁にまたがり、すき間から激しく水漏れしているんです」と、水行政を表現しました。

2009年秋、「水制度改革国民会議」は、水循環政策大綱と水循環基本法案をまとめ、新しい水循環社会の構築を提案しました。

趣旨は、子孫によい水環境を残すことにありました。

そのため、調査と監視を行う組織をつくり、事業を担当する組織と協力して、水環境政策を展開すること。人への影響だけではなく、生態系への影響も考慮に入れて制度やシステムを構築していく、というものでした。

ここが大事です。これこそが、この法律の基本精神だと考えます。

 

2011年1月、「水制度改革国民会議」は、衆議院第一議員会館で「水制度改革を求める国民大会」を開催しました。大会には、多くの国会議員も参加しました。党の枠を超えて健全な水循環システム構築について議論したのです。

大会でまとめられた要望書では、「縦割りの水制度と水管理体制は人と水のあるべき姿を歪め、水循環サイクルを破壊して久しい」と水行政が複数の省庁にまたがる現行の体制を批判したうえで、「地方主権的かつ統合的な水管理システムの実現を期する水循環基本法の早期制定と抜本的な水制度改革の断行を求める」と基本法の重要性を強調しました。

日本では、水に関係する省庁は多く、それぞれが部分的に所管しています。

 

  • 環境省・・・・・水質、生態系、廃棄物、浄化槽
  • 国土交通省・・・水資源、河川、下水道
  • 厚生労働省・・・水道
  • 農林水産省・・・農業用水、水産
  • 経済産業省・・・工業用水、水力発電

このため省庁間にまたがる課題には、対応しにくいのです。たとえば、「森林の保全・整備等の水源保全対策」「水質保全対策」「地下水の適正利用」などは、いくつかの省庁にまたがる問題で、管理や保全が適切に行われていないケースがありました。そのため水を司る横断的な組織(官庁)をつくり、そこで水問題を取り仕切る構想でした。

 

ところが、次第に情勢が変わりました。

2011年5月13日、民主党の国会議員でつくる「党水政策プロジェクトチーム」が東京・永田町の衆院第2議員会館で開いた会合で、座長の川端達夫衆院議員(当時)は、居並ぶ各省庁の官僚を一喝しました。

3週間前に開いた初会合で、前文と6章30条で構成する研究会案の説明を受け、川端座長は各省庁の担当者に、この案への意見を出すよう求めていたが、13日の会合までに提出したのは国土交通省だけでした。

1週間後、厚生労働省、経済産業省、農林水産省など9省庁から計百数十項目の意見が寄せられた。前文から各条文まで、「異論」はほぼすべてにわたっていました。

 

  • 「基本法にもかかわらず、中身は理念にとどまっていない」
  • 「条文ごとの慎重な検討が必要」

と、研究会案に対し、各省の所管法令との整合性を理由に一斉に異を唱えはじめました。

たとえば国土交通省は法案に盛り込まれていた「河川横断構造物(堰・ダム等)の除却を義務付け」「雨水の地下浸透を阻害する行為の禁止」「行政機関以外の第三者機関等による水環境監視・是正命令等」「安全で健康かつ快適な水環境の恵沢を享受する基本的権利を創設」に異を唱えました。

「地表水および地下水は、共に一体となって水循環を形成する公共の水資源である」と研究会案は、地下水を河川の水と同様「公の水」と明確に位置付けていたが、これには経産省が噛みつきました。

「地下水を公共水と位置付ける場合、既に地下水を使用している事業者などへの過剰な規制とならないよう配慮すべきだ」

水利権の転用を促進するために法制度を見直すとの方針には、農水省が「水利権は多大な労力と資本の投下により、長期をかけて形成されてきた」と異議を唱えました。

水行政の一元化に向けた「水循環庁」の新設には、総務省をはじめ複数の省庁から「既存の行政体系とどちらが効率的か、慎重な検討が必要」と反論が相次ぎました。

新たな規制につながる表現は次々に削除されていきました。

水循環基本法は「水資源を守る」ために「外資の土地買収に対抗する」ものと言われます。今日の産經新聞もそう書いているのですが、それは違います。実際の骨子は以下のようにまとめられます。

 

  • 水は国民共有の貴重な財産。
  • 国や地方自治体は、水関連政策を策定し実施する責務を持つ。
  • 国や地方自治体は、水循環に影響を及ぼす利用について適切な規制を講じる。
  • 内閣に水循環政策本部を置く。
  • 政府は法制上、財政上の措置を講じる。
  • 政府は毎年、講じた政策を国会報告する。
  • 政府は5年ごとに政策の基本計画を定める。

今後論点となるのが、「水は国民共有の貴重な財産」とはどういう意味で、水の利用は変わるのか、変わらないのか。変わるとしたらどう変わるのか、ということでしょう。

しかしながら、ひとまず理念法をつくって外堀を埋め、具体策は少しずつ議論していくというのも現実的な流れかもしれません。今後に注目したいと思います。

 


 

 

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