週刊「水」ニュース・レポート    2014年6月25日号

 

 

 

【今回厳選したニュース】

 

  • 「名古屋で緩速・生物ろ過国際会議  生物群集による水浄化の有用性を宣言」
  • (橋本淳司)

 


 

 

【ニュースを見る目】

 

6月19日〜21日、名古屋市公館にて、緩速・生物ろ過国際会議が開催されました。

1988年のロンドン開催から5回目でアジアでは初めて。自治体職員や研究者など、海外からの47人を含む204人が参加しました。

緩速・生物ろ過とは、水道水の浄水方法です。

水道水の浄水方法は2種類あります。

1つは、原水に薬品を混ぜて濁りを固め、沈殿させて除く「急速濾過」です。

もう1つが、生物の力で汚れをとりのぞく「緩速ろ過」です。

「緩速ろ過」は、明治時代に近代水道技術として導入され、日本の水道の発展に寄与しました。しかし、1960年代以降、主役の座を急速ろ過に奪われます。日本水道協会によると、全国の浄水場の78%が急速ろ過で、緩速ろ過は3%程度(2012年度、簡易水道を除く)。

ですから水道関係者のなかには「過去の技術」と位置づける人もいます。また、緩速ろ過の有用性を認識しながらも、急速ろ過の設備や薬剤をあつかう大手企業への配慮から、水道関係者の普及啓発活動が遠慮がちになっているという部分もあります。

しかしながら、緩速ろ過の施設は日本国内に2400あり、これらに対しては、技術支援や技術改革が必要になっています。また、「おいしい」水質や省エネなどの点で見直され、最近では、開発途上国の水支援の現場でも活躍しています。

会議冒頭、英国のNigel J Graham博士は、「緩速ろ過は未解明な点が数多く残されいる。水質向上やコスト削減のため、処理工程や前処理方法などの改良が必要である」と述べ、それに応じるように、さまざまな技術革新研究や導入事例が報告されました。

信州大学名誉教授の中本信忠氏は、「緩速ろ過という名称から、ろ過速度が遅い技術と誤解されがちだが、英国ロンドンのテムズ水道(緩速ろ過)の標準ろ過速度は9.6m/日と、日本での運転スピード(5m/日)の約2倍。緩速ろ過は、砂による物理ろ過ではなく、好気性の生物群集による生物浄化法であるため、必ずしもろ過速度を下げることが、水質向上に結びつかない。生物群集によるろ過であることを認識することが技術革新のスタート」と強調しました。

海外での導入事例も数多く発表されました。

サモアでは、高濁度の水へ対応するため、粗ろ過によって前処理したのちに、緩速ろ過による処理を行います。日本では、緩速ろ過は高濁度の水へは対応できないと考えられることが多いのですが、粗ろ過という手段により、緩速ろ過の負担を軽減する方法は、日本の水道関係者を驚かせました。

バングラディシュでは、高濁度の河川水を、沈殿槽、上向き粗ろ過、緩速ろ過という3つのプロセスで浄水しています。施設は村人が維持管理し、地域給水のモデルとなっています。日本でも人口減少地域での水道をどのように維持していくかが課題になっており、参考になるケースでした。

そのほか、ろ過槽の砂の代わりに布をつかう事例、下水処理の負担を軽減する応用事例、小規模集落で生活雑排水を浄化し再生する事例など、19か国からの発表がありました。

最終日には、会議の成果が読み上げられました。要約すると以下のようになります。

<成果要約>

 

  • 地球レベルの環境課題、経済課題に対応するために、先進技術だけでなく、適材適所で、省エネルギーで維持管理の簡単な「緩速・生物ろ過」技術を活用すべきだ。
  • 「緩速・生物ろ過」技術は、砂にゆっくりと水を通す物理ろ過ではなく、生物群集によるろ過である。オペレーションを最適化するには、このことを認識すべきだ。
  • 「緩速・生物ろ過」技術は、クリプトスポリジウムなどミクロレベルの汚染物質に対応できる。鉄やマンガンなども除去できる。ゆえに厳格な水質基準に適合する浄水技術である。
  • 「緩速・生物ろ過」技術は、粗ろ過等の前処理を行うことで高濁度の源水にも対応できる。
  • 「緩速・生物ろ過」技術は、地域コミュニティーにとって持続可能な用水処理システムになりうる。コンパクト化することにより、家庭や小規模集落での水処理システムに活用できる。災害に強く、回復力も高い。

以上が会議の成果ですが、個人的には、国際会議を通じ、緩速・生物ろ過の可能性を再確認しました。

UNEPでは、ハードコアの技術だけに頼らず、自然生態系が持っている機能やサービスを使って水を浄化したり、水の流れを制御したりする技術や管理手法に着目しています。

ハイテクノロジーを先進国から途上国に移転するよりも、現地にある自然の機能をうまく使うことで、さまざまなベネフィット(便益)を得ようという考え方です。

その点、緩速・生物ろ過は、必要最小限の技術で、現地の自然(土壌や生物群集)と共生しながら「おいしい飲み水」をつくる技術です。

 


 

 

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