週刊「水」ニュース・レポート    2014年12月10日号

 

 

 

【今回厳選したニュース】

 

  • 「自治体で進む水に関する条例整備と法律整備」
  • (アクアスフィア  橋本淳司)

 


 

 

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12月8日(月)は「水循環基本法フォローアップ委員会」の「地下水法案作業部会」でした。昨年成立した水循環基本法は理念法。これから個別法の整備が進んでいきます。まずはじめに、地下水に関する個別法をつくる部会が行われています。8日は佐久市、熊本市、秦野市の担当の方から、それぞれの地下水条例の話を聞き、質疑応答の時間が設けられました。各自治体の話を聞いて、地下水の収支をあきらかにすることが大切であり大変だと感じました。収支とは地下水がどのように増え、どのように減るかということです。これがわかると、どのくらいつかってもよいかがわかります。

質量の両面でのモニタリングがカギを握ります。地下水に関する個別法は、年内に各委員からの意見が集められ、1月末に草案がまとめられます。

ここ数年、各地の自治体の水資源を守る動きが活発になりました。

外国資本による水源地買収が話題になりながら、国がなかなか地下水に関する法整備に動かなかったので、地域の問題は地域で解決するという気運が巻き起こったのでしょう。

条例は大きく3タイプに分けられます。土地取引のルール、地下水取水のルール、地下水かん養のルールです。これらが単独、あるいは組み合わせてつくられるのが一般的です。

土地取引のルールの代表は、北海道の「水資源の保全に関する条例」でしょう。

外国資本が北海道の森林取得し、水源周辺で利用目的の明らかでない大規模な土地取引もあり、多くの市町村が懸念をしていました。

そこで道は、土地取引にルールを定めることにしたのです。まず水資源保全地域を指定する。そして指定された区域内の土地の権利を移転する場合には、土地所有者は契約の三カ月前までに届出を行わなくてはならない、というものです。

地下水取水のルールの代表は、熊本県の「地下水保全条例」でしょう。地下水を大口取水する事業者は知事の許可が必要になりました。この条例では地下水を「私の水」ではなく「公共の水」であるとしています。地下水は水の循環の一部であり、県民の生活、地域経済の共通の基盤である公共水であると明記されています。

地下水保全のルールは、それぞれの地下水流域ごとにつくられると実態に合ったものができ、利用も管理もしやすくなります。市町村単位のルールでは限界があります。地下水が、行政の境を超えて地下水が動くからです。地下水は地下に固定された水ではありません。地下を流れる川と考えたほうが実態に近いのです。県がルールづくりを行う意味はここにあります。市町村の垣根を超えて、広域的な調整を行うのです。

熊本地域で水を大量につかっているのは人口の多い熊本市です。地下水の下流域に当たります。一方、かん養(雨や地表水を地下に浸透している)のは上流域の白川中流域です。1つの地下水流域を共有しているという意識をもてるかどうかが、条例制定のポイントとなります。熊本県のルールには3つめの「地下水涵養」も明記されています。

北海道や熊本県のように「国の動きは待てない」と独自に一歩を踏み出した自治体がある一方で、国の顔色をうかがいながら、動きのとれない自治体もありました。条例を自分たちでつくるよりは、国の法整備を待っているのです。

じつは自治体の担当者を悩ませる問題が3つあります。1つ目は、条例が適正かどうか。不当な条例をつくって、行政訴訟などのトラブルが起きるのは避けたいのです。2つ目は、自治体内が必ずしも一枚岩でないこと。地下水保全を第一に考えるグループがある一方で、地下水を資源として販売したいグループがあること。3つ目は自治体と自治体の調整。たとえば県条例と市町村条例がある場合にどう整合性をとるか、近隣自治体と考え方が違う場合にどう調整をつけるかなどに頭を悩ませています。

なかでも1つ目の「条例が適正かどうか」は大きな問題です。

これまでの民法によると、「地下水は土地所有者のもの」であると解釈できます。これを根拠に、地下水は土地の付属物と扱われてきました。

自治体が条例でくみ上げを規制するのは、どこまで可能なのか。はっきりした線引きはありません。しかし、判例のなかには、「地下水は一定の土地に固定的に専属するものではなく、地下水脈を通じて流動するものであり、その量も無限ではないことから、土地所有者に認められる地下水利用権限も合理的な制約を受ける」(二〇〇〇年二月、名古屋高裁判決)というものがあります。簡単にいえば、「周辺に迷惑をかけるような使い方をしたらアウト」ということでしょう。

条例策定のなかで懸念されるのは、「井戸設置を許可制にすることは財産権の侵害につながらないのか」ということです。

しかし、安曇野市で地下水保全条例案を作成する委員会の委員長をつとめた藤縄克之信州大学名誉教授は「地下水は土地所有者の財産権に守られているというが、いままでの裁判で無視されているのは憲法の存在だ。憲法には財産権がある。自分の財産が侵されたときには、それを守る正当な理由があるとしている」と言います。たとえば、Aさん宅の隣に住むBさんが工場を誘致したとしましょう。工場は地下水を大量につかいはじめました。地下水位は低下。Aさんの土地の地下水も少なくなりました。これはAさんの財産権も侵害されたことになります。
「民法で保障しているのは、あくまでも自分の土地の下にある地下水を、他人に影響をおよばさない範囲でつかうということである」(藤縄教授)。
つまり、もしAさんが何らかの悪影響を受けた場合、裁判に訴えることができるでしょう。憲法の解釈をめぐっては、条例による財産権の制約も可能であるとする見解が多いものの、財産権に規制をかけた場合の損失補償の必要性については諸説あります。

条例で規制をかけた場合、自治体は土地所有者に対し、何らかの補償を行う可能性も残っています。これについて懸念する自治体担当者は多く、この問題をクリアするためにも、国が法律で地下水について明確なルールを定める必要があります。

 


 

 

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