週刊「水」ニュース・レポート    2014年12月24日号

 

 

 

【今回厳選したニュース】

 

  • 「やはば水道サポーターワークショップ  ここでは市民が水道の未来を決める」(前編)
  • (アクアスフィア  橋本淳司)

 


年末年始の特別レポートとして、岩手県矢巾市で行われている「やはば水道サポーター」のワークショップについて3回連続で取り上げます。

矢巾町では、2009年から、持続可能な水道事業実現には、「納得して水道料金を支払う意識を持つ住民との関係の構築が必要」という認識から、水道サポーター(一般公募)を対象にしたワークショップがはじまりました。参加者全員がフラットな立場で討論したり、施設見学などを交え、水道のあるべき姿を話し合ってきました。水道事業の現状と設備更新を実施しない場合に生ずるリスク・対策などの情報をオープンにして討論することで、市民は自分たちの水道の将来を選択していきます。

12月24日が前編、31日は中編、1月7日が後編となります。

 


 

 

【ニュースを見る目】

 

12月18日、爆弾低気圧の影響で日本海側を中心に北日本は大荒れ。これも気候変動の表れなのでしょうか。「はたして到着できるかな」という思いで、始発電車に乗りました。目指すは岩手県矢巾町。

11月に東京で開催された「地方自治と水道シンポジウム」で、興味深い話を聞きました。岩手県矢巾町上下水道課係長の吉岡律司さんの話です。「この人が噂の吉岡さんか。ぜひ矢巾に行ってワークショップを見学しなくては!」と思いました。じつは水道業界の重鎮で「トップダウンが大好き」な某氏が「矢巾のやり方は面倒くさい」と言っているのは聞いて、僕は反対に期待を募らせていたのです。

吉岡さん曰く、「水道政策を実効的に行うには市民の理解が不可欠ですが、現実的には、水道への関心は薄れる一方。水道のない時代を経験している人であれば、水道の「ありがたさ」を訴えれば響きますが、現在の市民の多くは、生まれたときから水道のあった世代。蛇口をひねれば「あたりまえ」のように水が出てきます。関心があったとしても「水道をもっとおいしく」「水道料金を安く」の2点でした」。

そこで矢巾町は、2段階の広報戦略を立てました。1つは水道の現状を知らせるマンガ冊子。行政がつくるものにしてはかなりポップな内容です。

もう1つが、今回レポートする住民参画(水道サポーター)のワークショップです。2009年から公募で集まった市民と職員が勉強会を続け、水道の現状と課題について共有してきました。その結果として「水道を維持するためには水道料金を上げる必要がある」という意見が市民から出たというのです。

「水道をもっとおいしく」「水道料金を安く」から「水道の持続性のためには値上げもしかない」という変化は、いったいどのようにして生まれたのでしょうか。

水道事業の経営は、給水人口の減少、施設の更新などから、現状のままで立ち行かなくなりつつあります。しかし、その対策状況は自治体によってまちまちです。自分なりの「ものさし」でレベル分けしてみます。

<水道事業の危機意識レベル>

 

  • 【レベル1】水道事業の危機を認識していない
  • 【レベル2】水道事業の危機を漠然と認識している
  • 【レベル3】水道事業の危機を認識し、今後の財政を踏まえた持続可能な事業を把握している

<水道事業の民主化(市民との共有)レベル>

 

  • 【レベル1】市民と共有していない(共有したつもりになっている)
  • 【レベル2】市民と共有している
  • 【レベル3】市民が主体的に課題解決方法を考えている

<水道事業の危機意識レベル>と<水道事業の民主化(市民との共有)レベル>を掛け合わせると、水道事業のスコアが1〜9点で評価できます。あなたのすむ町はどうでしょうか?

「水道事業の危機意識レベル」について言えば、水道事業のなかでは危機を認識していても、首長や議員については知らないためのレベル1になっているケースもあります。多くの水道事業者はレベル2に止まっていて、そこから細かな未来予測を数値で出しているところは稀です。

「水道事業の民主化レベル」について言えば、レベル1がほとんどです。水道事業者は「市民との情報共有は行っている」と考えていますが、それは水道事業者のWebサイトに、A4用紙2、3枚程度の文書をPDFでアップしたことを指しています。つまり情報は発信していますが、共有はされていません。

もしくは意図的に隠している水道事業者もあります。「この状況を市民に説明しても理解は得られない」「値上げするしかないが、それを発表すれば反対されるに決まっている」と考えているのです。

 

さて、大宮駅を出発した新幹線はやぶさは、途中何度か停車したり、徐行運転を行ったものの、約40分の遅れで盛岡駅に到着しました。そこから東北本線に乗って矢幅へ(自治体名の「矢巾」にたいして駅名は「矢幅」と違う漢字。歴史としては「矢幅」のほうが古く、駅周辺に「矢幅」という地名も残っている)。列車を降りると、道路には雪が40センチほど積もり、いまなお降り続いていました。

矢巾町役場の4Fにある会議室には、20名ほどの人たちが集まっていました。「やはば水道サポーター」の人たちです。2009年度から公共水道を守るため、主権者である町民と町が一緒に考え意思決定する」ことを目的としてスタートした事業ですが、この日は、2014年度の2回目。町が進める水道施設の整備計画策定の検討委員会に、サポーターの声を反映させるために行われた。

広い会議室の中央に、パソコンの映像を映すためのスクリーン。

サポーターは10名程度ずつ2グループ。各グループともホワイトボードに向かってU字型に配置されたイスに座ります。

それぞれのグループにファシリテーターと書記がいます。書記はホワイトボードに模造紙を貼ってサポーターの意見を書いていきますが、1つの「問いかけ」につき模造紙1枚にまとめるよう工夫されており、会場には第1回の意見を記録した模造紙が貼ってありました。

この様子を見ただけでも、このワークショップが本気で住民との情報共有や合意形成を考えていることがわかります。

反対に、多くの自治体が行っているのは「説明会」の場合が多いのです。自治体の職員が前に立ち、パワーポイントをつかってレクチャーします。市民は教室のように並べられた机に座って黙って話を聞きますが、話もレジュメも難解なのでよくわからないから、すぐに眠くなります。レクチャー終了後、2、3の質問がでても、よくわからない回答が何度か繰り返され、「じゃあ、時間ですから、あとはまとめておきます。よろしいでしょうか」「・・・」で終わり。本当にこれが合意形成なの、という場面が多いのです。

この日ははじめに、ファシリテーターからこんな問いが投げかけられました。「現時点での水道事業の課題は、30年後や50年後を考えたとき、優先順位が変わるでしょうか?」

どうですか、なんとも高度な投げかけだとは思いませんか? 僕もいろいろなところで水の話、水のワークショップを行いますが、冒頭にこのレベルからスタートするのはむずかしいと思います。

この質問に答えるためには、現状の課題を知っていることはもちろん、30年後、50年後がどうなるかという予測が必要で、それにはさまざまな知識が必要です。

参加者は大丈夫だろうか、フリーズしないのか。しかし、それは杞憂でした。「現時点での課題は・・・」と1人1人が端的に、スラスラと話しています。

 

  • 水道管路の老朽化
  • 水道事業の人材不足
  • 給水人口減少による財源不足
  • 災害対策  など

そして、「30年後や50年後を考えたとき課題の優先順位が変わるか」という問いに対しては、

 

  • 「現時点での問題の見極めと取り組み次第で優先順位は変わるだろう」
  • 「いまの世代が多少負担を負っても未来世代にツケをまわさないことが重要だ」

「やはば水道サポーター」のレベルの高さにワークショップ冒頭から衝撃を受けました。吉岡さんが僕に「どうですか?」と聞いてきたので、「すごいですね」と答えるしかありませんでした。(12月31日の中編に続く)

 


 

 

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