週刊「水」ニュース・レポート    2015年7月2日号

 

 

 

【今回厳選したニュース】

 

  • 「地下水保全法案のその後」
  • (橋本淳司)

 


 

 

【ニュースを見る目】

 

週間「水」ニュース・レポートの2015年2月18日号に「『地下水保全法』早ければ年内に施行」という記事を書きました。

 

しかし、それはなくなりました。地下水保全法が6月末までに成立していれば「半年後施行」ということで、年内施行のはずでした。ですが現状は、国会で審議もされていませんし、「超党派でつくる水制度改革議員連盟」(水議連)の動きも活発とは言えません。多くの地下水を保全しながら活用しようと願う多くの自治体の人が、早期の地下水保全法の成立を願っていただけに、水議連の熱の低さに違和感を感じます。

少しふりかえってみましょう。「地下水の保全、涵養及び利用に関する法律」(「地下水保全法」)は、今年2月17日、水循環基本法フォローアップ委員会にて審議され、同日高橋裕座長より、水議連の石原伸晃代表に上申されました。このときは今国会会期中(6月末)に成立の機運が高まりました。

地下水保全法について簡単にまとめてみます。

 

<<地下水保全法の概要>>

◉なぜ地下水保全法が必要なの?

 民法には「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」という規定がある。つまり土地所有者に、地下にある地下水の利用権があると解釈できた。近年、外国資本による土地取得の増加、森林の荒廃、水田の減少、都市化による涵養域の減少などから地下水の持続性に関する法案策定が求められていた。

 

◉法律の目的は?

 

  • 地下水の質量の保全
  • 涵養(地表から水を地下に浸透させ地下水量を増やすこと)
  • 利用方法について定め、国、地方公共団体、事業者、国民、土地所有者の責任を示し、健全な水循環を維持すること。(昨年施行された水循環基本法では、国、地方公共団体、事業者、国民の責務が規定されているものの、土地所有者の責務は規定されていなかった。国土所有が国外化している実態に照らし、土地所有者の責務を新たに規定している。)

 

◉地下水の位置付けは?

地下水を地表水と一体的に水循環を構成する「国民共有の貴重な財産」とし、保全・涵養・利用のマネジメントは地下水域を基本単位として行う。

 

◉誰が管理するの?

都道府県を地下水保全団体として管理主体とすることが基本。地下水域が2つ以上の都府県にまたがる場合は、関係都府県が共同して、権限を行使する。また、地域の状況に応じて、市町村が地下水に関する計画、保全・涵養活動を行うことができる。

 

◉管理者は何をするの? できるの?

 

  • 地下水保全団体は、保全・涵養・利用に関する基本計画を策定・実施。必要に応じて利用を許可制としたり、保全・涵養事業の財源として地下水採取の許可を受けたものから負担金を徴収できる。
  • 地下水保全特別区域を指定し、採取の禁止や制限も可能。
  • 土地の移動に伴う地下水汲上げの権利の移動については、土地売買契約の30日前に、当事者の氏名、土地の所在、面積、土地の利用目的などを届けさせる。
  • 水質については、いったん汚染されると回復が困難であることから、人の健康に悪影響を及ぼす可能性のある汚染物質からは「予防的な取組により対応」する。
  • 地下水保全団体の長は、人命や自然生態系に著しい影響を及ぼす恐れのある地下水障害を防止するため、地下水障害や揚水機を設置した土地所有者に対し、原状回復や再発防止措置を命じることができ、違反したものは1年以下の懲役又は50万円以下の罰金。

というのが「地下水保全法案」の概要です。

その後、中川俊直事務局長より「地下水涵養負担金条項削除」の意向が示されました。それを受けて議連共同代表会議が開かれ、フォローアップ委員会は、中川事務局の提案が不適切であることを主張しました。地下水涵養負担金条は、地下水の管理者にとっては、モニタリングや涵養事業を行うための貴重な財源です。しかし、企業は新たな負担と感じました。実際には、その土地で水道水(工業用水)よりも安価な地下水をつかいコスト削減を図っています。これは企業努力であると認められますが、地下水が持続的に使えることが、企業の存続につながることも事実なので、少額の負担金を求めてもよいのではないかと考えます。それに法案には「負担金を求めることもできる」とあり、義務付けているわけではありません。地下水保全のあり方は多様でよいと思われます。

さらに中川事務局長のもとに、衆議院法制局、各省より、法案に対する意見が寄せられました。

衆議院法制局からは「憲法の財産権に抵触の恐れ」、「リニア新幹線建設に支障」などの意見がありました。

「財産権」については、そもそも憲法においても、公共の福祉に反しない使用が求められているので大きな問題はないと思います。

一方、リニア新幹線は、地下水に与える影響は大きいと考えます。実際、実験線の工事現場でも水涸れが起きています。

リニア本線の全長286キロメートル経路の約8割が地下トンネルになります。それに加え、ルート上に直径40メートルの巨大な立坑が5〜10キロメートルおきにつくられます。つまり、東京−名古屋間の地下深くつらぬく横穴と、そこに向かって地上から伸びる無数の縦穴があきます。

本線のトンネルのなかでも、とりわけ長いのが南アルプス横断トンネルです。小渋川など2カ所の川を渡る橋梁部分でトンネル外へ出るだけなので、実際には山梨県富士川町から豊丘村に至る延長約50キロのトンネルと考えられます。富士川、大井川、天竜川という三河川の流域を1本のトンネルで貫くわけですが、水涸れについて最も懸念されているのが大井川です。

JRが大井川水系源流部の7地点で工事後の河川流量を試算したところ、赤石発電所木賊取水堰上流で毎秒2.93トン減るという結果が出ました。トンネルを掘ることで河川流量が減るメカニズムは、掘削途中に地中の水脈にぶつかりトンネル内部に地下水が染み出すことが原因です。そこでJR東海はトンネル周囲の地盤の隙間を埋める薬剤を注入したり、防水シートを施しながらトンネルをコンクリート加工する案を示していますが、こうした対策を講じても、地下水がトンネル外側のコンクリ表面を伝うなどして山梨、長野両県内のトンネル開口部から流出する懸念は残ります。

こうしたことを考えると、地下水保全法がリニア新幹線建設の障害となる恐れがあり、リニア建設が悲願である現政権が、地下水保全法成立に前向きになれないのではないかと考えてしまいます。

さらに、水循環基本本部がまとめている「水循環基本計画」もまとまりませんでした。今年4月に原案に対するパブリックコメントが募集され、1ヶ月後に締め切れらましたが、石原伸晃代表は水議連において前向きな議論もされず、担当大臣である太田国交相へ働きかけることもありませんでした。

世界的な水不足や水汚染の広がり、国内でも豪雨災害の広がりが懸念されるなかで、日本の水政策は大きく遅れたと言ってよいでしょう。

 


 

 

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