週刊「水」ニュース・レポート    2015年10月21日号

 

 

 

【今回厳選したニュース】

 

 


 

 

【ニュースを見る目】

 

今日は、「日本の淡水 安全保障への外交カード」という菊地健さんの提言について考えてみたいと思います(上記記事へのリンクでは冒頭しか読めないので、重要な箇所は引用します)。

この提言はこうはじまります。

「日本には資源がない、とよく言われる。確かに石油や天然ガスは乏しいが、実は世界に誇る貴重な資源がある。

淡水だ。

水の惑星と言われる地球だが、その大部分は海水で、淡水は地球上でも限られた地域に、限られた分量しか存在しない。気候変動が進行し、世界で干ばつが多発している。

今年に限ってもオーストラリア南東部や中国南西部、米国西部では特に深刻だ。淡水への渇望が国際紛争の火種になったとしても、決しておかしくない。シリア内戦も、干ばつがその一因だとの見解があるほどだ。」

次に「あくまでも私個人の見解」としながらも、菊地さんが提唱するのは、「淡水による安全保障」です。
「石油輸出国機構(OPEC)が産油国の強みを生かした外交を展開したように、遠くない将来、淡水は日本にとって有力な外交手段になる可能性を秘めている。

いわば、エネルギー安全保障の淡水版とでもいうべきものだ。淡水の提供は現時点でも、気候変動に伴う干ばつなどへの適応策として、有効な「外交カード」となる可能性がある。

淡水という強力な外交カードを握ることで、国際社会に日本が与える影響力を高め、多国間交渉などでの立場を有利にしよう、というわけだ。

気候変動が進行し、淡水の希少価値がさらに高まれば、輸出品という一層、強力なカードになる可能性もある。

日本には質の良い淡水が豊富にあり、しかも陸続きの国境がないため、それを独占できる。石油と比べても、競合品もなく、危険物ではないため運搬も簡単で、精製も不要という利点がある。」

 

今日は、この提言について、

 

  • 水は外交カードになりうるか、
  • バーチャルウォーター輸入をどう考えるか、
  • 日本の水資源マネジメントは万全か、

の3点から考察してみたいと思います。

 

  • 水は外交カードになりうるか
    まず、淡水を外交カードに使うことはできないでしょう。それは水を他国に依存するとあきらかな従属関係が生まれるからです。
    たとえば、トルコは水によって周辺国への影響を強めようとしていました。
    1980年代後半、トルコはジェイハン川とセイハン川の水をパイプラインでアラブ諸国に提供しようとしました。トルコのねらいは、昔日のオスマントルコ領に水を配り、政治的影響力を拡大することでした。その交渉手段として、水を使おうとしたのです。
    ですが、打診を受けたアラブ諸国は、それがいかに危険なことかがわかっていました。
    水が不足している土地では、一度でも水を他国から買ってしまうと、その国に依存することになります。水の価格をいつ上げられるかわからないし、関係が悪化すれば、水を止められてしまう可能性もあります。
    水は喉から手が出るほど欲しい。
    でも、政治的にみて、水の安全保障という観点から、アラブ諸国は断ったのです。
    同様のケースがマレーシアとシンガポールにもありました。
    シンガポールはマレーシアから淡水を買っていますが、政治交渉がこじれるたびにマレーシアが水価格の値上げをちらつかせることから、水の自給に踏み切りました。雨水活用、下水処理水の再生利用、海水淡水化などを急ピッチですすめています。
    生命線である命の水を他国に依存するの危険と考えるのです。
  • バーチャルウォーター輸入をどう考えるか
    この提言では、日本の水の潤沢さが前提になっていますが、それは海外の水に依存しているからだという事実をどう考えるかです。
    食料自給率が4割ということは、私たちの食卓に並ぶ食料をつくっている水の6割は他国の水です。
    企業が生産につかう原材料も他国の水でつくられます。
    日本企業の多くは、原材料や部品を海外のサプライヤーに依存しているからです。
    2012年、環境分野の保証業務を行うKPMGあずさサステナビリティと英国の環境調査会社トゥルーコストが、日経平均採用銘柄225社の国内の生産拠点と海外のサプライヤーの水消費量を分析しました。
    すると国内の生産拠点の使用量は年間約190億t(225社の平均)でしたが、海外のサプライヤーは年間約600億tでした。製品を製造するときに必要な水の76%を海外に依存しているという結果です。
    食料品の生産地や原材料の調達先で水不足が起きると、食料品や原材料の価格が高騰したり、輸入できなくなるケースも考えられます。
    そうした場合にそなえ、水の輸出を考えるまえに、自国の水をいかに効率的に使用するかを考えるほうが安全保障上重要と考えます。
  • 日本の水資源マネジメントは万全か
    日本には地下水の所有に関する明確な決まりごとがありません。
    地下水が国民共有の財産であることを定めた「地下水保全法(案)」は、既得権をもつものたちの横槍によって、宙ぶらりんになったままです。
    民法には「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」という規定があります。つまり、土地の所有者に、その地下にある地下水の利用権があると解釈することもできます。だから、土地を所有すると、その土地の下にある地下水は自由に汲み上げることができます。
    日本には比較的豊富な地下水がありますが、それは土地を購入すれば簡単に手に入ることになります。外国資本であって土地の購入は自由です。
    このように土地や水に関するルールがぐずぐずな状態で、水資源を外交カードに使ったり、安易にマーケットにのせるのは非常に危険です。
    「日本は海外からの投資が少ない国だ。外国人に土地を売ってこそ経済が活性化する」
    「国内にある豊富な地下水を海外の渇水地域に輸出することで、国内の淡水資源を有効に活用できるではないか」
    世界では希少資源や農地など、グローバル資本による資源争奪戦が加速しています。
    そして日本の金融関係者、エコノミストの多くは、グローバル化をさらに推進させることによってバラ色の未来が待っていると考える人が多い。これからもますますグローバル化を促進させようとし、政府もその路線で進んでいます。
    あらゆるもの、たとえば市場での取引に適さないとされる土地や水も、国際商品となりうるならば、どんどん売ってしまおうというわけです。
    しかし、水をマーケットに安易にマーケットにのせると、いつのまにか奪われてしまうケースもあります。
    カナダでは飲料水会社が何度か淡水資源の輸出を試みていますが、カナダ政府がそれを止めています。
    とくにケベック州やマニトバ州、ニューファンドランド州では、米国への水輸出によって、地方の経済を活性化したいと考えています。このあたり、日本の地方活性化策で同様のことを考えている自治体も多いので似ています。
    しかし、いずれもカナダ連邦政府によって契約が破棄されています。
    カナダは米国とともに北米自由貿易協定(NAFTA)を結んでいます。
    水の輸送がいったんはじまると、「自然資源としての淡水」ではなく「経済財としての水」となって自由貿易の対象品目に含まれるため、カナダ連邦政府は淡水資源を管理できなくなります。
    カナダ連邦政府の外務・貿易省は「水産物のように水が財として貿易されても、連邦政府は、その貿易を管理する権利を依然として有する」と判断しており、水輸出による地方の経済振興を引き続き図りたい州政府と、水資源管理に重点を置く連邦政府との間で議論が続いています。
    土地や水を安易にマーケットにのせることで、水が奪われてしまう可能性があります。そうしたことを考えて、自国の水マネジメント、水に関するルールづくりを急ぐべきと考えます。

 


 

 

【その他の「水」ニュース】