週刊「水」ニュース・レポート    2015年12月2日号

 

 

 

【今回厳選したニュース】

 

 


 

 

【ニュースを見る目】

 

今週はタイトルに"water war”(水戦争)とついたニュースをとりあげます。

ISISは、シリア、イラク領内を流れるチグリス川、ユーフラテス川沿いにある6つのダムを管理下におきました。ダムを管理下におくということは、ダム水を利用している人、ダムの下流域に住む人たちの命運を握ることを意味します。

イラク南部では、ここ数年干ばつが進行していました。そのうえダムからの給水が止まると生活は非常に厳しくなります。反対に、止めたダムの水を一気に放流すると、洪水を引き起こすこともできます。水は無くても、ありすぎても人の命を奪います。その性質を利用して、武器として使用することは決して許されないことです。

イラク西部アンバール県の県都ラマディ北部にある「ラマディ・ダム」について見てみましょう。ラマディは、ユーフラテス川やその支流に囲まれる位置にあります。ユーフラテス川やその支流が、ISISの進軍を妨げる自然の防壁の役割をしていました。

規模は小さいですが、日本の城(平城)が水堀によって防御を固めていたのと同じです。攻める側にすれば、なんとか水を涸らし堀を埋めてしまいと考えます。

ISISも同様で、戦闘を有利に進めるため、ダムを占拠し、水門を閉鎖しました。今年6月には26カ所の水門のうち20カ所以上を閉めました。わずか数カ所が開いていますが、その時間も限られています。

このためユーフラテス川は、歩いて渡れるほど水位が低下しました。下流にあるカリディヤなど政府系の町や、ハバニヤを拠点とする大規模な治安部隊を攻撃するのも容易になりました。

さらに下流域では水不足が発生し、生活・農業用水に深刻な影響が出ています。

せき止められた水の一部はユーフラテス川の支流からラマディ南方のハバニヤ湖に流れこんでいます。政府は湖から別ルートをつかって、再びユーフラテス川に水を戻すよう試みているのですが、水量はごくわずかで一時しのぎにすぎません。

政府側からは、水流を復旧させるため、せき止められたダムを爆撃すべきだとの意見も出ています。

こうしたことが6つのダム周辺および下流域で発生しています。ダムの水力発電に頼る地域では、電気切断も発生しています。

水源地や水インフラの重要性をあらためて感じます。水を握れば支配できてしまいますし、握られれば支配されてしまいます。もしくは死に至ります。

かつて米国も軍事戦略として水インフラへの攻撃を繰り返してきました。

朝鮮戦争では、北朝鮮最大の発電用ダムである水豊ダムを爆撃しました。この作戦は北朝鮮から電力を奪うことが目的だったとされています。ベトナム戦争では、北ベトナムの首都ハノイとハイフォン港に対して徹底した絨毯爆撃を行い、それによって浄水施設など水インフラを多く破壊しました。

しかし、水インフラの攻撃によって、多くの市民が犠牲になりました。そのためベトナム戦争後の1977年、ジュネーヴ諸条約第1追加議定書(第1追加議定書)が採択されました。

 

 この54条「文民たる住民の生存に不可欠な物の保護」、56条「危険な力を内蔵する工作物及び施設の保護」において、戦時における「水」への攻撃ははっきりと禁止されています。

54条「文民たる住民の生存に不可欠な物の保護」

 

  • 戦闘の方法として文民を飢餓の状態に置くことは、禁止する。
  • 食糧、食糧生産のための農業地域、作物、家畜、飲料水の施設及び供給設備、かんがい設備等文民たる住民の生存に不可欠な物をこれらが生命を維持する手段としての価値を有するが故に文民たる住民又は敵対する紛争当事者に与えないという特定の目的のため、これらの物を攻撃し、破壊し、移動させ又は利用することができないようにすることは、文民を飢餓の状態に置き又は退去させるという動機によるかその他の動機によるかを問わず、禁止する。

56条「危険な力を内蔵する工作物及び施設の保護」

 

  • 危険な力を内蔵する工作物及び施設、すなわち、ダム、堤防及び原子力発電所は、これらの物が軍事目標である場合であっても、これらを攻撃することが危険な力の放出を引き起こし、その結果文民たる住民の間に重大な損失をもたらすときは、攻撃の対象としてはならない。

国連加盟国(193か国)のうち、第1追加議定書締約国は171カ国あります。現在のISISにこのルールに従うよう求めるのは難しいですが、人道的に考えても、水インフラの占拠や攻撃はあってはなりません。いついかなるときも水は公正に分配されなくてはならないし、持続的に使われなくてはなりません。

 


 

 

【その他の「水」ニュース】