週刊「水」ニュース・レポート    2016年3月30日号

 

 

 

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大阪市議会は3月29日の本会議で、市営バス事業の民営化に向けた基本方針案、経営健全化計画案、市立環境科学研究所と府立公衆衛生研究所の統合に向けた議案を大阪維新の会と公明党の賛成多数で可決しました。その一方で、地下鉄事業の民営化方針案と水道事業民営化の条例改正案は継続審議となりました。

今日は、水道事業民営化の条例改正案が継続審議になった理由について考えていきたいと思います。

大阪市の吉村市長は、全国初となる水道事業の民営化条例案を、2月16日開会の市議会に提出しました。計画では、浄水施設などの設備は、引き続き大阪市が保有。取水から給水までの水道事業は、市が100%出資する新会社が行います。もう少し具体的に言えば、3か所の浄水場、10か所の配水池の土地・建物、市内に張り巡らされている配水管(総延長約5000キロ)などは市が保有し、30年間の事業運営権は新会社に売却する予定です。

そもそもなぜ民営化の議論が起きたのか。

大阪市水道局の収益は2013年度約650億円。1998度以降の15年間で24%減少しており、今後、人口減少と老朽化した施設の更新などを考えると、経営の見直しが必要とされてきました。そこで前述のように、施設は大阪市が保有、事業運営は民間が行うという「上下分離型コンセッション」というスタイルを編み出しました。

このプランを推進する竹中平蔵・慶応義塾大学教授は「大阪市の水道事業コンセッションのようなプロジェクトを実現することができれば、企業の成長戦略と資産市場の活性化の双方に大きく貢献するだろう」(『Voice』14年10月号)、「運営権を民間に売れば公的部門にもお金が入ってくる。そして公的部門に入った資金を別のインフラ投資に向けることができる」(下水道関係者を集めた講演)と評し、大阪市も民間のコスト感覚・経営感覚を導入し、30年間で910億円のコスト削減、将来的な水道料金値上げを回避を実現するといっています。

言いことづくめのようですが、継続審議になったということは懸念材料も多いということでしょう。そのうちのいくつかをまとめてみました。

1.事業会社の収益性

民間企業の創意工夫によって事業収益が高まるというのは一般的なの考え方です。しかし、水道事業はそうとは言い切れない部分が多い。コンセッションで成功している空港と水道の違いを以下のようにまとめてみました。

<空港事業>

  • 付帯事業(商業施設、ホテル、駐車場など)の創出を図れる
  • 顧客に対して利用を促進して事業拡大を図れる
  • 着陸料は航空会社と企業間取引(個別交渉)で決まる

<上下水道事業>

  • 付帯事業:ない
  • 顧客に対して利用を促進することはない(夏場の水不足の時期などむしろ節水をよびかける)ので事業拡大を図れない。給水人口はこれから漸減傾向にある。る
  • 水道料金:区域内住民を相手とする消費者取引で決まる

上記のように収益を拡大することがむずかしいのと同時に、民間ならではのコストも発生します。

<新たなコスト>

  • 役員報酬の支払い
  • 法人税の支払い
  • 国庫からの補助の取り消し

このうち法人税の支払いは事業会社との契約期間30年間で570億円と見積もられています。そのため大阪市は国に対して税負担軽減措置を求めています。たとえば、「法人税の軽減措置」「法人税相当額を還元する措置」「利益の一定額を税法上の損金に計上する措置」などです。しかしながら、もしこれが実現されると税負担の公平さを欠くことになります。また、国の方針に合っているからという理由で、仮に「法人税相当額を還元する措置」が実施されたとしても期間は限定的でしょう。契約期間の30年間も優遇措置が実施されるとは考えられません。そもそも民間のコスト感覚・経営感覚を導入してコスト削減を図ることを強調しておきながら、法人税は支払いたくないというのはおかしな感じがします。

2.公と事業会社の関係性

一般的には事業を委託する民間企業を選択することでサービス向上やコスト削減を図ります。ところが今回の場合は違います。大阪市が抱える水道事業を民間に変えて、契約するというものです。じつは大阪市にとっては公務員数の削減こそが本当のねらいであって、水道事業の公営、民営などの議論はどうでもいいのかもしれません。そのためか計画書の随所に、運営会社に対する甘えを感じるところがあります。

たとえば、運営会社は以下のことを自らの経費負担で行っていかなくてはなりません。

 

  • 大阪市の水道は、経年化管路(法定耐用年数40年を超過した水道管)の割合が高い。
  • 更新に多額の事業費が必要。
  • 水道網縮小などの抜本的改善が必要

同時に大阪市は「時間がかかるので水道施設の資産査定は行わない」「それこそが上下分離を選択した理由」としています。これは「地下に埋まっている水道管がどれだけ老朽化しているかはわからないが、とにかく治せ。修理代はあなたたちもちである」ということです。運営会社は大きな負担を強いられ、待遇が悪化し、職員のモチベーションの低下も懸念されます。資産査定をきちんと行わないとトラブルが発生する可能性が高いです。民営化すると外資に買われるという議論もありますが、これほど負担が多いので、外資に買われるような魅力的な会社になるのかと思ってしまいます。

3.非常時の水道の維持

常時の水道経営について語られていますが、非常時については語られていません。多くの人が水道に対して気にしていることは「おいしさ」と「料金」です。ただし、それはあたりまえのように蛇口から出ている日常生活においてです。もし、水が止まってしまったら、生きていくことができなくなります。非常時にどう対応するかという細かなシミュレーションが必要でしょう。

水道管路の老朽化し断水が頻発するためコストは増加する、人口が減っていく市町村では水道事業を継続すればするほど赤字を垂れ流すかもしれません。水道がおかれている状況はとても厳しいものです。そのうえで震災が起きたらどうでしょう。同じく被災しながらも瓦礫をかきわけて給水活動し、水道復旧工事をするのは誰なのか。東日本大震災のときには水道に携わる公務員が誇りと責任をもって給水と復旧に当たりました。首都直下地震や南海トラフ地震が30年以内に発生するという予測があるなかで、そうした体制をどう維持するのか。

大阪市はすでに官民連携を行っています。米大都市水道協会(AMWA)は「公営のままでも民間企業体と同等あるいはより優れた効率性、経済性で提供できる 」としており、新しいスキームに踏み出す意義が本当にあるのか。公と民の役割分担と常時・非常時をふくめて責任の所在はどうなるのかなど、明確にすべき点は多いでしょう。