週刊「水」ニュース・レポート    2016年6月1日号

 

 

 

【今回厳選したニュース・レポート】

 

  • 「〝効く水〟はどのようにつくられるか」
  • (アクアスフィア 橋本淳司)

 


水素水の効果に疑問符がつき、ドブに落ちた犬のように各方面から叩かれています。

ですが〝効く水〟つくられ方としては古典的な手法がとられたと思います。今日はそのことについてお話ししたいと思います。

そもそも〝効く水〟の歴史は古いのです。

国産第1号のボトル水は炭酸水でした。1880年(明治13年)、当時発行されていた「東京絵入り新聞」という新聞に、「山城炭酸水」という商品の広告が載っていて、これが国産第1号ではないかといわれています。販売価格は1瓶20銭。ビール大びん1本14銭、日本酒1升14銭、キツネうどん1ぱい1銭という時代だからかなり高いものです。

それでもけっこう売れました。そのほかにもいくつか炭酸水が販売され、明治時代には炭酸水が国民的なブームになったのです。

なぜ明治時代にどうしてこれほど炭酸水が飲まれたのか?

じつは当時、大流行したコレラの予防にガス入りの水が効くと考えられていました。メーカーがコレラ予防に効くと宣伝したのでしょう。いまなら完璧に薬事法違反です。活性酸素を除去するという水素水がちっちゃく見えますね。

でもPRが功を奏し、ガス入りの水は国民的ブームとなりました。1瓶20銭という高い値付けも薬と考えれば納得できます。

でも、その後、コレラが沈静化するとともに、炭酸水ブームは去りました。

興味ありませんか? 炭酸水はコレラ予防に効いたかどうか。もちろん効くわけありません。いまなら笑っちゃう話なのですが、当時はまじめに考えられていたのです。

でも、いまでも水素水に限らず、こうした話はよく聞きますよね。

「○○病がたちどころに治る奇跡の水」なんていう〝効く水〟が、結構な高値で売られているのです。明治時代の炭酸水と同じ手法で。これはPRが功を奏しているのです。

メディアで「特別な効能あり」と紹介されて、ヒット商品になった〝効く水〟はこれまで数えきれません。

たとえば、ちょっと懐かしめのところで「海洋深層水」というものがありました。海洋深層水は水深200メートルより深く、太陽の光が届かないところにある水です。海藻や植物プランクトンの繁殖が少なく清浄で、しかもマグネシウムなどのミネラル分が豊富に含まれています。もっとも海水をそのまま飲むことはできないので、脱塩装置などにより塩分やミネラル分を除き、飲用に適するよう調整されています。

この水が「体にいい」といわれて大ブームになりました。含まれるミネラル成分が生活習慣病や中性脂肪、血糖値の低下に効果があるという研究結果が新聞、雑誌などに取り上げられてブームに火がつきました。いまから20年くらい前のことです。

ちなみにいま私の手元にある海洋深層水のパンフレットには、「高血圧症、骨粗鬆症、便秘、動脈硬化などの予防に役立ちます」と書いてあります。

思い切り薬事法に違反。

薬でないのに効果効能を書いてはいけないのです。

海洋深層水は1リットル500~800円という高額にも関わらず、当時は飛ぶように売れました。そのため新規参入が相次ぎ、低品質の商品も出回りました。

たとえば、鉱泉水に少量の海洋深層水を加えた水や、中国産のにがりを添加した水までもが、「深層水」の名で量販店の棚に参入しました。これなら「海なし県」でも簡単にできるのですが、それなりに遠慮しているのか「海洋」はとってありました。地中深くから採取した水と読めなくもない。このため公正取引委員会から指導を受けました。

その当時、こんなことを聞かれました。

「でも『海洋深層水』そのものは体にいいのでしょう? ニセモノ(混ぜ物)が出回っていることが問題なのでしょう?」

この質問、〝効く水〟を考えるうえで核心をついたものだと思いました。今回も「水素水そのものは体によくて、水素の含有量が問題なのではないか」という意見があり、話をややこしくしていました。

〝効く水〟にはわからないことが2つあります。

まず「○○水は体にいい」という情報が本当か嘘かわからない。「海洋深層水は体にいい」と言われているが、それが本当なのか嘘なのかがわからない。という点が1つ。

それに加えて、目の前におかれた「○○水」が「本物」か「偽物」かわからない。という点が一つ。要するに「海洋深層水が体にいいか悪いか」という問題と、「この水は本当に海洋深層水なのか」という問題は、別の問題です。

海洋深層水が体にいいとすれば、本物か偽物かにこだわる必要があるのでしょうが、そうでなければどうでもいいことです。これは海洋深層水に限らず、水素水を含めて〝効く水〟すべてにいえることです。

さて、では海洋深層水は体にいいか。これは正直のところわかりませんでした。研究途上で効能や効果について科学的、医学的に裏付けるデータが不足し、医学者のなかでも意見が別れていました。

"効く水"は大抵はそんなものです。

では、そんな曖昧なものがなぜ大ブームになったのか。

先ほど、「含まれるミネラル成分が生活習慣病や中性脂肪、血糖値の低下に効果があるという研究結果が新聞、雑誌などに取り上げられてブームに火がついた」と言いましたが、正確に言えば、誰かが火をつけたのです。

メーカーの宣伝部かメーカーから委託されたPR会社かはわかりません。いずれにしても誰かが綿密な計画を練って、海洋深層水を世の中に送り出したのです。

"効く水"のPRは、「新事実」「専門家の研究」「体験談」の3点セットで行なわれます。

まず、PR会社は「新事実」をマスコミに流します。

たとえば海洋深層水なら、海洋深層水という存在そのものがニュースになります。PR会社からリリースなどを受け取ったマスコミは、「海洋深層水とは水深が200メートルより深く、太陽の光が届かないところにある水。海藻や植物プランクトンの繁殖が少なく清浄で、しかもマグネシウムなどのミネラル分が豊富に含まれている」といったことをニュースにします。

海洋深層水という一般名称が、大衆にある程度認知された段階で、次は専門家による研究発表をリリースします。海洋深層水の場合ならこうです。

「マグネシウムは体の代謝作用を改善し、糖尿病などの生活習慣病、心臓病、動脈硬化予防のために重要なミネラルで、その働きで中性脂肪や血糖値が正常値まで低下した」

注意して欲しいのですが、これはマグネシウムの働きについての研究発表なのです。ですが、「海洋深層水にはマグネシウムが豊富に含まれている」という前の情報と並べることによって、このように読み替えてしまうのではありませんか?

「海洋深層水は体の代謝作用を改善し、糖尿病などの生活習慣病、心臓病、動脈硬化予防のために重要なミネラルで、その働きで中性脂肪や血糖値が正常値まで低下した」

体にいいとされる商品のCMや記事をよく見てください。

このような手法を使っているはずです。

だいたいそんなにマグネシウムを摂取したければ、豆やひじきを食べたほうがよっぽどいいと思うのですが(笑)。

すでにお気づきかもしれませんが、テレビの健康番組もまったく同じ手法です。テレビの健康企画はPR会社のプレゼンの場です。わかりやすい例えを言えば、赤ワインの販売元からPRを頼まれたとしましょう。そうしたらPR会社は、「ポリフェノールに抗酸化作用あり」、そして「ポリフェノールを含むのは赤ワイン」という企画をもっていきます。番組には、商品を売り出そうというPR会社が長い行列をつくっているのです。

そして、3つめが体験談。

体験談は商品と成分の効能を結びつける働きをします。海洋深層水の場合なら、海洋深層水を飲んで体の調子がよくなった人に取材し、どのくらい飲んだのか、どのような症状が改善されたのかなどがまとめられます。

このとき体験談が誇張されることもよくあります。

健康補助食品を活用している人は、こういう類いのものが基本的に好きなので、A商品、B商品、C商品……などといくつもの商品を飲んでいることが多い。正直どれが効いたのかわからないはずです。それでもA商品の体験談取材では、B商品、C商品について語られることはなく、「A商品のおかげで健康になりました。これからも続けていきたいと思います」などという記事になります。

商品パンフレットを見ると、大抵「新事実」「専門家の研究」「体験談」の3点セットになっているものです。このように〝効く水〟はPRによって世の中に出回ります。ブームはつくられるのです。

薬ではない〝効く水〟の効果効能を述べることは、薬事法で禁止されているため、婉曲的な表現をします。

たとえば、「中高年の健康維持に最適」などと。薬事法に抵触せずかつ効果があるようなイメージをもたせるのがコピーライターの腕の見せ所。

こんなコピーがありました。

「健康水として1700年の歴史を誇るドイツアルプスの湧水をその場でボトリングし、酸素を加えたピュア・ミネラルウォーターです。消化器官から酸素が吸収されることは科学的に証明されています」

どうですか、うまいコピーでしょう。

「健康水」とは何でしょうか?

人によっては、「健康になる水」と解釈するでしょうね。

「1700年の歴史を誇るドイツアルプスの湧水」。

これもよくわかりません。

「科学的に証明されています」と言われると「おっ」と思いますが、何が証明されているかというと、「消化器官から酸素が吸収されること」。でも、インパクトの強いキーワードを勝手に拾い読みして、「1700年もまえから健康になることが科学的に証明されている水」と思ってしまう人がいるかもしれません。

今後もこのような「特殊な水」が、PR会社の「仕掛け」によって突如脚光を浴び、市場を席巻するでしょう。そのときは少しだけ冷静になって欲しいと思います。あまり高価なものでなければ。半信半疑な気持ちで楽しむ余裕があればいちばんよいのではないかと思います。