週刊「水」ニュース・レポート    2016年6月9日号

 

 

 

【今回厳選したニュース・レポート】

 

  • 「〝効く水〟をつくる浄水器、販売の現場」
  • (アクアスフィア 橋本淳司)

 


先週いわゆる〝効く水〟が、PR会社の「仕掛け」によって突如脚光を浴び、市場を席巻するという話を書いたところ、浄水器や活水器はどうなのか、という問い合わせをいただきました。家電量販店で売っているような、水道水のなかの不純物を取り除く浄水器は問題ないと思いますが、なかには〝効く水〟と同様に怪しい商品があるのも事実です。

今回は個人的な体験をもとにお話しします。だからすべての浄水器や活水器が以下の話にあてはまる、というわけではありません。こういうケースもあるのだと考えていただければと思います。

ずいぶんまえのことですが、わが家に浄水器の販売員がやってきたことがありました。

彼は「水道局のほうから」やってきました。「水道局から」来たのではなく「水道局のほうから」やってきたのでしょう。

販売員は玄関に体を捻入れるや、汚染された水源の写真や水質調査表を取り出し、水道水がどれほど危険か、浄水器を設置するといかによい水が飲めるようになるかを40分以上も力説ししました。耳を傾けるうちに彼のペースに巻き込まれました。

彼は、「お宅の水道水を検査させてください」といって上がり込み、水道水をくんで実験装置に入れてかきまぜました。すると水はこげ茶色に濁りました。

「たいへんですよ。こんなに有害物質が混じっています。これを飲み続けたら体に悪いですよ」

ヘドロのようなものが浮き上がってきたので、私はすっかり驚き、この浄水器を買ってみようかという気に少しなりました。

後から知ったことですが、これは浄水器詐欺の古典的な手口なのです。ビーカーに入れた水道水に試薬を一滴たらし、黄色く変色した水を見せて、「こんな水を飲んでいるとガンになりますよ」と不安をあおり、さっさと浄水器を取り付てしまう、というパターンもあります。販売員が帰ったあとに契約書を見ると、高額な浄水器の購入契約書だった、という話であります。

ただ、そのときの私はそんなことは知りませんでした。

「これ、いくら?」

販売員は笑顔で答えた。

「40万円です」

「え?」

「40万円です!」

この時点で「買わない」ことに決定したが、興味があったので少し質問してみることにしました。

「あのう、スーパーなんかで蛇口に取り付ける浄水器が300円くらいで売ってますよね。あれとこれとはどこが違うんですか?」

販売員からはきちんとした説明が得られませんでした。

その1年後、こんどは磁石で水を活性化する機器をもった二人組の女性がやってきました。

「磁石の力によって水のクラスターが小さくなって、おいしくて健康のいい水ができます」

正直、何をいっているのかわかりませんでした。

じつは磁石で水を磁化するコップの工場を中国で見たことがある。コップの外側に小さなネオジウム磁石を2つ貼付け、さらに外側を覆うというものだった。私のところに売りにきたのは筒のなかを水が通り抜けると磁化されるというものでした。

女性は、コップに水道水をくみ、それを大きな磁石の上にのせた。そいて飲んでみろと言いました。

「いかがですか。クラスターが小さくなってまろやかな水になったでしょ」

「そんなような気もするし、そうでない気もするし…。塩素はどうなったんですか」

「磁石によって無害化されました」

はっ? いくらなんでもその説明は無理があるでしょう。

私が「よくわからん」という顔をしていると、女性は、「今度の土曜日にセミナーがありますから、ぜひ参加してください」とパンフレットをおいていきました。

私はそのセミナーに行ってみました。

そこでは活水器の説明はなく、まず使用者の体験談が語られました。「高血圧が治った」「リウマチが治った」「下水がきれいになった」など、いろいろな体験談が語られました。そうした体験談を聞くうちに、会場は昂揚し、そして「医者に見放されていた末期がんが治った」と涙ながらに訴える初老の女性のエピソードで最高潮に達しました。私も泣いてしまいそうだったので、「いい話には必ず裏がある」という言葉を何度も噛み締めながら、雰囲気に流されるのをたえました。

そして、次にこの活水器をたくさん売った人が表彰され、どのように自分が販売したかというノウハウが語られました。

「これはもしかしたらマルチまがい商法ではないか」

商品を買って会員になり、知人や友人を紹介すればリベートがもらえ、自分の系列に加入者を増やしていくと、大きな利益が得られる。反面、強引に売りつけたために人間関係が壊れたり、売れない商品を抱え込むこともあります。

浄水器ビジネスには陰の部分があります。浄水器をネタにした手口は見破られにくいのです。痩せる健康食品とか美白になる化粧品などは効果を実感することができでしょう。しかし、「クラスターが小さくなり水がおしくなる」「電気分解で健康によい水ができる」などは、まったく確認することができません。結局、消費者として業者のいう効能を信じるしかないのです。

その後、ある出版社の方から、「いろいろな浄水器や活水器の品質がひとめでわかる、『暮らしの手帳』的な本をつくりたいのですが相談にのってもらえませんか」という電話をもらいました。

浄水器や活水器の種類は多い。浄水器、アルカリイオン整水器、磁気活水器のほかにも活性水素水や波動水などをつくり出す活水器もあって、それぞれが「すばらしい効果効能」を売りものにしています。

そして、期待した効果が得られなかったと、購入者をがっかりさせることもとても多い。

「浄水器や活水器を評価するのは科学者の仕事だと思います。私にはできません」

浄水器ならまだしも、活水器のなかに、性能や効果のあやしいものが多いことはわかっていました。ものすごい付加価値をうったえることが多く、「この水を飲めば病気が治る」とかいうのは典型的なパターンです。

あやしい、とは思う。ただ、それを科学的に検証する知識や技術を私はもっていなません。私が活水器の性能を判断するとき際、これまではきちんとした学術論文があるかどうかで判断していました。大学の研究者が浄水器や活水器をきちんと実験して、効果があると認めたものなら、まず間違いないだろう、という1つの判断基準です。

ある活水器の販売員にそういうと、

「あんたな、現代科学は万能ではないよ! 科学では解決できない不思議な力だって存在するんだよ!」

と、恫喝されたことがあります。

そこで、「それならば正々堂々と、『この水は、現代科学では説明できない不思議な力によって病気を治す』といえばいいじゃないですか」と言いました。

奇跡の水の話はよく聞きます。

信じる、信じないは本人の自由。

本人の自覚さえあれば、私が口をはさむことではないと思っています。

だが、不思議な力には再現性がない。

Aさんには効果があっても、Bさんには効果がない。このまえは効いたけど、今回は効かないでは商品として販売することはできません。

そのためか、あたかも科学的に根拠があるような説明を並べてくるのです。

さまざまな活水器の説明書を読むと、不可解なことが多い。科学用語らしきものを並べ、論理的に解説しているようにみえるが、用語の使用法に間違いが目立ち、論理的にも飛躍や矛盾があり、意味不明の解説になっています。

「この機器を使うと水がおいしく」というだけでは、消費者に対して説得力がない。そこで科学用語らしきものつかって強引に説明しようとしているのでしょう。

世の中には現代の科学ではまだ証明できないものがあるといいながら、現代の科学知識を強引につかって説明しています。もしかしたメーカー側もきちんと説明できないのではないでしょうか。活水器メーカーは零細企業が多く、きちんとした研究機関をもっていません。外部に委託してきちんとした調査を受ける費用にも乏しいでしょう。また、技術を他のメーカーに盗まれることも恐れています。

この点では、じつは水を活性化するのはごく単純なしかけなのではないかとも推察できます。

不可思議な現象を、何とか理屈をつけて説明しようとすると、そこにオカルトが発生する。説明もおかしい。

効果がなかったケースを問いただすと、「水を信じていなかったからパワーが受け取れなかったのだ」という。

それなのに「水の効果に半信半疑だったのに効いたケース」がパンフレットに書かれていたりする。

矛盾しているじゃないか。

もう1つ問題がある。それは研究で一定の効果が認められ論文にはまとまっているが、まだ定説にはいたっていないというケース。水素水の人体への効能についても、「人体に有害な活性酸素を除去する」という研究者がいる一方で、「そのような効果は見られない」「活性酸素を無闇に敵視すること自体がナンセンス」という意見もありました。ようするにまだ明らかになっていない、というのが結論なのです。

それでも企業は健康ブーム、水ブームにのって、「すばらしい効果効能をもつ水のできる浄水器・活水器」を次々に世に送り出してきます。

大学の研究者のなかには、企業から金をもらって浄水器や活水器に有利な論文やコメントを発表したりする人もいます。こうなると素人にはもはやお手上げ。浄水器や活水器のパンフレットには、よく有名大学教授が「お墨付き」を与えていることがあるが、これはPRの常套手段。企業から金をもらってやっているのだから、話半分に聞いておいたほうがいい。よくよく見ると、工学部や農学部の教授が、「ガン細胞を小さくした」なんてコメントもしているから笑ってしまいます。

私は水に多くのことを期待するのは反対です。安全な水が、毎日2リットル弱飲めて、衛生的に生きていける生活用水があれば、それで十分です。水に困る人たちの姿を見るにつけ、安全な水が、安く、誰にでも手に入ることがいちばんすばらしいと思っています。