週刊「水」ニュース・レポート    2016年6月16日号

 

 

 

【今回厳選したニュース・レポート】

 

 


「凍土遮水壁」。このプロジェクトはおかしい。皆さんも何らかのプロジェクトに携わっているかもしれません。プロジェクトを進めるに当たっては、誰かにとってプラスをもたらすこと、プラスが数値管理できること、予算管理ができていること、責任者がいることなどが必須の条件になります。しかし、「凍土遮水壁」というプロジェクトにはそのすべてがないのです。

原発の汚染水処理はまったく目処がたっていません。それどころか汚染水の量は増え続けるばかりです。

福島第一原発では、いまなお毎日およそ40万リットルの水が、メルトダウンした燃料の過熱を防ぐために、原子炉心に注水され続け、放射能汚染水は増え続けています。この放射能汚染水には、「取り出されて処理されている水」と「地下に流れこみ外洋に流れ出している水」の2つがあります。

「取り出されて処理されているもの」は放射性物質を吸着して濃度を大幅に下げる装置「ALPS」(アルプス)で処理されますが、トリチウムやその他の有害な放射性核種を含んでいるので、ひたすら貯蔵タンクで保存されるだけです。つまり、「処理されている」と言われつつ、実際には不完全な処理しかできていないので、保管されています。

次に「地下に流れこみ外洋に流れ出している水」です。溶けた核燃料を冷やした水が高濃度汚染水となって建屋地下にたまります。福島原発では水素爆発によって原子炉建屋の屋根が吹き飛び、地震と津浪で施設のあちこちが壊れています。その結果、原子炉内を冷却した水を保管する「地下の貯水槽」から水が地下に漏れています。回収され処理されているのはごく一部です。

この2つでさえ大問題なのですが、さらに「敷地に流入している地下水」の存在が大きい。

 福島原発の地下には地下水脈が走っていて、毎日1000トンの水が原子炉建屋地下に流れ込んでいます。事故前は、この水を汲み上げて海に流していましたが、事故で汲み上げる装置が故障。そのため水が原発施設のなかに入ってきたり、放射性物質で汚染された地下水と混ざりながら海に出ています。

その水の流れを止める目論見で計画されたのが「凍土遮水壁」です。凍土壁は1〜4号機の建屋周辺の土壌を取り囲むように長さ約30メートルの凍結管を埋め込み、マイナス30度の冷媒を循環させて地下に総延長約1500メートルの氷の壁をつくるというものです。巨大な2つの壁。山側の壁で建屋に流れ込む地下水をせき止め、汚染水の発生そのものを抑え、海側の壁に外洋に出ていく水も止めるのが狙いでした。

しかし、「凍土遮水壁」はもともと効果がないとされていました。「地下水の流れを完全に止めるのは不可能」、「できたとしても、しくみそのものが危険。予想を上回る遮水効果が現われて、建屋周辺の地下水が急激に低下した場合、建屋内の汚染水と水位が逆転して汚染水が環境中に漏れ出す」という、うまくいきそうもないが、うまくいってもダメという基本思想のおかしなプロジェクトなのです。

不安は現実のものとなりました。

海側の凍土壁の運用開始から2カ月経ちますが、想定通りの効果を示していません。地中の温度は9割以上で氷点下まで下がりましたが、4カ所で7.5度以上のまま。壁ができていれば減るはずの海側の地盤からの地下水のくみ上げ量が、凍結の前後で変わっていませんでした。

凍土システムが完全に機能せず、すきまから水が漏れているため「まるで簾のようだ」と言われています。約345億円を投じたものの、現状ではまったく効果を上げています。

現在はすきまをセメント系の材料を入れることを検討しています。

しかし、これも問題です。セメントの耐用年数は約100年ですから付け焼き刃にすぎないでしょう。

さらに水が止まったとしても、凍土壁によって水が止まったのか、セメントによって止まったのかがわからないので、プロジェクトの効果や凍土壁の調整のしようがないのです。

東電は地下水の流れで下流側にあたる海側の凍土壁から段階的に凍結させ、水位の低下を防ぐ計画でしたが、海側の壁が簾の状態のままで、上流の山側を完全凍結すれば、水位がどんどん下がっていく可能性があります。計画では、山側を完全凍結して遮水効果が80%以上になったら、水位逆転の危険を回避するためいったん凍結をやめるとしていますが、「80%」を正確に判断することはできません。

現在のような簾の状態のままでは効果はなく汚染水は流れ出す。

完全に機能しても汚染水が流れ出す。

慌ててセメントで補強しようとしている。

うまくいっているかどうかは定かではない。

膨大な税金をかけている。

責任者は明確でない。

安倍首相は、東京五輪誘致のプレゼンで、

 

  • 「The situation is under control」(状況はコントロール下にある)
  • 「私(安倍晋三首相)が安全を保証します。状況はコントロールされています」
  • 「汚染水は福島第一原発の0.3平方キロメートルの港湾内に完全にブロックされている」

と言いましたが、発言を撤回し、真摯に汚染水問題に取り組むべきでしょう。この問題は本当にやっかいです。