週刊「水」ニュース・レポート    2016年7月27日号

 

 

 

【今回厳選したニュース・レポート】

 

 


香港(CNN) 中国の北京で地盤沈下が進み、最も被害が大きい地区では年間11センチも沈下していることが27日までに分かりました。中国を拠点とする国際調査団が調査結果を発表した。沈下の原因は地下水の枯渇にあると指摘しています。

研究チームは衛星画像やGPS(全地球測位システム)のデータを解析し、2003〜10年にかけての地理的動向を調べたその結果、北京の地盤沈下は急速に進んでいることが判明。特に朝陽区、昌平区、順義区、通州区は沈下の程度が大きく、最も被害が深刻だった東部の昌平区は年間11センチのペースで沈んでいました。

CNNのニュースにからめ、今日はこれまでの中国取材を基に、同国の水事情をレポートします。

北京は水の7割を地下水に依存しています。

2010年、北京市水務局の幹部は、「地下水の残存量について、ありのままを住民に話したらパニックになってしまう」と顔を歪めていました。

北京では年間約1メートルずつ水位が下がり、限界が近づいているのだといいます。さらには、

「このまま北京が膨張し続けたら、首都機能を果たすことができない。だから、首都移転も真剣に検討されはじめた」

と聞きました。

なぜ、そんなことになってしまったか。

それは収入のない家庭が、浪費を続けたときに似ています。

もともと中国北部は雨の量が少ないのですが、北京市では1999年以来、降雨量の少ない年が続いています。

簡単にいえば、地下水とは降った雨が地中にたまったもの。

雨が降らないのに地下水を使うのは、収入がないから預金を崩すのと同じです。

その使い方も急激に増えました。

北京には中国全土から人が集まります。地方の秀才は北京の大学を目指し、卒業後は就職できなくても北京を離れない。

北京は膨張を続け、人口は2152万人(2014年)。一人当たりの水使用量は1日に250リットルとされるから、単純に計算すれば、北京全体で1日500万トン超の水を使用することになります。

北京市の水使用は周辺にも影響を与え始めています。河北省環境保護庁が2010年に行った調査では、同省の浅い層の地下水の平均水位が、前年比で39センチメートルも低下しました。

北京市は南東部が天津市に接している以外、河北省にぐるりと囲まれています。北京市は前述のように地下水を大量に汲んで使っており、河北平野全体の地下水位低下に影響したと言えます。

これだけ地下水を汲み上げると、当然ながら地盤沈下も頻発します。

私は中国取材中によく地盤沈下の発生した現場に出くわしました。崩れた地盤にコンクリートを流し込んでいる作業現場もありました。

しかし、表立って報道されることはありません地元のネットメディアで取り上げられることもあるが、数日後には記事が削除されていました。

水不足と同時に水質汚染も深刻です。

中国の重要な水源である長江の水質汚染の悪化傾向ははなはだ著しい。

かつては「黄金水源」と言われた長江は、汚染企業に囲まれてしまいました。沿岸にはおよそ40万以上の化学工業企業があり、このほかにも5大鉄鋼基地、7大石油精錬工場、石油化学基地などが分布します。

長江デルタ地帯には太湖があります。

中国で3番目に大きな湖で、無錫、常州、蘇州、上海に飲料水を供給しています。

太湖周辺は淡水魚と農産物に恵まれ「魚米の郷」といわれています。

ところがこの20年、太湖周辺の工業開発と宅地開発のため、それぞれの排水が大量に太湖に流れこみ、太湖の汚染と冨栄養化を招きました。2007年にはアオコが大量発生し、太湖の水は飲料水として使えなくなりました。政府は、太湖を汚染ワースト3の湖沼に指定し、水質汚染対策を進めています。

水不足は大国の行方に暗い影を投げているといえます。

中国は世界人口の20%を占めながら、水資源は世界全体のわずか7%。

そのため中国は水確保に躍起になっている。それは「なりふり構わぬ」といえるケースもあります。

チベット高原の氷河と地下水は「中国の給水塔」と呼ばれます。

チベット高原は、東南アジア、南アジア、中央アジアの多くの河川の水源地であり、水はここを中心に放射線を描きながら流れます。

中国にとってチベットは命綱。チベットが「中国の一部」となったのは、1949年の中国軍進駐にはじまり、59年の「ラサ蜂起」、ダライラマ14世のインド亡命に終わる一連の事件の結末です。それ以前のチベットは、中国とは異なった言語・歴史・文化・社会を有する独立体でした。いまチベットが独立すると中国は命綱である水源を失うことになるから、決して手放しはしないでしょう。

さらに国際河川(2か国以上を流れる河川)での開発は、周辺国に大きなストレスを与え、国際関係は緊張するでしょう。

中国はアジア最後の未開拓地、メコン川の開発に力をいれ、上流に次々に大型ダムを建設しています。

メコン川はチベット高地の源流から5000メートルの高さを下ります。6か国を流れ、下流デルタを形成し、南シナ海に注ぐ国際河川だ。流域諸国にとってメコンは母なる川であり、生活の多くを依存しています。

たとえば、ラオスでは水力発電量の半分をメコン川に依存し、タイでは耕地の50%が流域に存在する。ベトナムではメコン・デルタが米生産の半分以上、GDPの3分の1を生み、1700万人の居住地となっています。

ダム建設はメコン川下流域に大きな影響を与えます。

流砂サイクルの断絶により肥沃な土地は減少しメコン・デルタは縮小。

流域の河岸侵食は著しく進み、メコン川の流量が激減し、汚染が進む。タイ・ラオス国境地帯では漁獲量が減っています。

タイの穀倉地帯では水不足が深刻になり、少ない水を工業と取り合い生産量は頭打ちです。

ベトナムのメコン川下流地域では南シナ海の海水が逆流する現象まで起きた。そのため淡水養殖場の魚が大量に死に、水不足で農作物も枯れています。

中国はメコン川以外にも主要河川の上流に相次いでダムを建設しています。

インダス川、サルウィーン川、ブラマプトラ川、カーナリ川、サトレジ川などの上流に中国が7000余りのダムを建設したことで、下流国では危機感が高まっています。

とりわけ中国と国境紛争や軍事対立を繰り返してきたインドは、ダム建設に邁進する中国に警戒感を強めています。じつはインドでも水不足が深刻です。食料需要の高まり、工業用水の急増で地下水が枯渇している。だから中国のダム建設に鋭い視線を向けています。

ですから中国の水不足・水汚染はもはや同国だけの問題ではなくなっているのです。