週刊「水」ニュース・レポート    2016年10月5日号

 

 

 

【今回厳選したニュース・レポート】

 

  • 「厚生労働省/来年の通常国会に水道法改正案を提出/コンセッション方式を後押し」
  • (アクアスフィア 橋本淳司)

 


厚生労働省が、来年の通常国会に水道法改正案を提出します。

今回の改正の大きな目的が水道の持続。

老朽化対策の規定に関する項目案が、このほど開かれた同省の有識者会議「水道事業の維持・向上に関する専門委員会」(委員長・滝沢智東大大学院教授)で提示されました。

主な項目案をあげてみます。

 

  • 市町村を中心とする水道事業者に対し、努力義務として水道施設の戦略的な更新・耐震化や、給水人口に見合った規模の適正化(統廃合)を行うことを求める。
  • 水道事業に充てる人員や予算が限られる中小規模の事業者には、国が戦略的な老朽化対策の計画づくりを重点的に支援することを定める。
  • 国の財政支援を通じ、都道府県など大規模な水道事業者の職員やコンサルタントから官民の有識者を率先して派遣する。
  • 戦略的な老朽化対策を努力義務とする前提の項目案として、施設の構造・材質や取得年度、数量、設計図面などの関係データをまとめた台帳の作成を挙げた。

国が水道施設の老朽化対策を急ぐのは、水道の基幹施設に当たる管路で老朽化が進んでいる一方、更新される管路の割合(更新率)は落ち込んできたためです。

全国にある管路ストック(総延長約66万キロ)のうち、法定耐用年数(40年)を超えたストックの割合は、12年時点で12.1%と8年前(06年)の倍に増加。更新率は14年時点で13年前(01年)の半分となる0.76%に減少しています。

さて、今回の改正では、水道運営のあり方を左右する大きな動きが盛り込まれそうです。

それは水道管理者に公共施設等運営権(コンセッション)の導入を促す、というものです。

これは、水道の施設は公が保有するが、運営権は民間がもつというものです。

水道事業へのコンセッションは、「官から民へ」という政府全体の目標として14〜16年度に6自治体程度での具体化を目指しています。

ですが、現在までに実施方針を公表しているのは18年4月に事業開始を目指す大阪市と17年4月に事業開始を目指す奈良市の2自治体。

そこで厚労省は、自治体や企業がコンセッション方式に取り組みやすくなるよう、『水道事業における官民連携に関する手引き』に、同方式の検討に当たって必要となる情報や留意点を、具体的な事例を踏まえた形で詳細に盛り込む考えも示しています。

どうもコンセッションをうながして、政府のノルマを達成するための動きではないか。水道経営の健全化とは別に、民営化された水道を早期に実現するという力が強く働いていると考えられます。

官民連携手法の1つとしてコンセッション方式があるものの、現時点で実施例はない。それはいくつかの懸念材料があるからなのです。

そして、コンセッション方式をわざわざ採択しなくても、別の官民連携の方式をとれば水道経営の健全化は図れます。

 

コンセッション方式に手をあげる大阪市の例をもとに考えていきましょう。

大阪市水道局の収益は2013年度約650億円。1998度以降の15年間で24%減少しており、今後、人口減少と老朽化した施設の更新などを考えると、経営の見直しが必要とされてきました。

そこで前述のように、施設は大阪市が保有、事業運営は民間が行うという「上下分離型コンセッション」というスタイルを編み出しました。

このプランを推進する竹中平蔵・慶応義塾大学教授は、

「大阪市の水道事業コンセッションのようなプロジェクトを実現することができれば、企業の成長戦略と資産市場の活性化の双方に大きく貢献するだろう」(『Voice』14年10月号)

「運営権を民間に売れば公的部門にもお金が入ってくる。そして公的部門に入った資金を別のインフラ投資に向けることができる」(下水道関係者を集めた講演)

と評し、大阪市も民間のコスト感覚・経営感覚を導入し、30年間で910億円のコスト削減、将来的な水道料金値上げを回避を実現するといっています。

竹中さんはいつも黄金色の夢をばらまきますが、もちろん懸念材料もあります。

 

1.事業会社の収益性

民間企業の創意工夫によって事業収益が高まるというのは一般的なの考え方です。しかし、水道事業はそうとは言い切れない部分が多い。コンセッションで成功している空港と水道の違いを以下のようにまとめてみました。

<空港事業>

  • 付帯事業(商業施設、ホテル、駐車場など)の創出を図れる
  • 顧客に対して利用を促進して事業拡大を図れる
  • 着陸料は航空会社と企業間取引(個別交渉)で決まる

<上下水道事業>

  • 付帯事業:ない
  • 顧客に対して利用を促進することはない(夏場の水不足の時期などむしろ節水をよびかける)ので事業拡大を図れない。給水人口はこれから漸減傾向にある。
  • 水道料金:区域内住民を相手とする消費者取引で決まる

上記のように収益を拡大することがむずかしいのと同時に、民間ならではのコストも発生します。

<新たなコスト>

  • 役員報酬の支払い
  • 法人税の支払い
  • 国庫からの補助の取り消し

このうち法人税の支払いは事業会社との契約期間30年間で570億円と見積もられています。

そのため大阪市は国に対して税負担軽減措置を求めています。たとえば、「法人税の軽減措置」「法人税相当額を還元する措置」「利益の一定額を税法上の損金に計上する措置」などです。

しかしながら、もしこれが実現されると税負担の公平さを欠くことになります。また、国の方針に合っているからという理由で、仮に「法人税相当額を還元する措置」が実施されたとしても期間は限定的でしょう。

契約期間の30年間も優遇措置が実施されるとは考えられません。そもそも民間のコスト感覚・経営感覚を導入してコスト削減を図ることを強調しておきながら、法人税は支払いたくないというのはおかしな感じがします。

 

2.公と事業会社の関係性

一般的には事業を委託する民間企業を選択することでサービス向上やコスト削減を図ります。

ところが今回の場合は違います。大阪市が抱える水道事業を民間に変えて、契約するというものです。

じつは大阪市にとっては公務員数の削減こそが本当のねらいであって、水道事業の公営、民営などの議論はどうでもいいのかもしれません。橋下徹前市長にはリストラと水道労組の弱体化を図る意図がありました。

そのためか計画書の随所に、運営会社に対する甘えを感じるところがあります。

たとえば、運営会社は以下のことを自らの経費負担で行っていかなくてはなりません。

  • 大阪市の水道は、経年化管路(法定耐用年数40年を超過した水道管)の割合が高い。
  • 更新に多額の事業費が必要。
  • 水道網縮小などの抜本的改善が必要

同時に大阪市は「時間がかかるので水道施設の資産査定は行わない」「それこそが上下分離を選択した理由」としています。

これは「地下に埋まっている水道管がどれだけ老朽化しているかはわからないが、とにかく治せ。修理代はあなたたちもちである」ということです。

運営会社は大きな負担を強いられ、待遇が悪化し、職員のモチベーションの低下も懸念されます。資産査定をきちんと行わないとトラブルが発生する可能性が高いです。民営化すると外資に買われるという議論もありますが、これほど負担が多いので、外資に買われるような魅力的な会社になるのかと思ってしまいます。

 

3.非常時の水道の維持

多くの人が水道に対して気にしていることは「おいしさ」と「料金」です。ただし、それはあたりまえのように蛇口から出ている日常生活においてです。もし、水が止まってしまったら、生きていくことができなくなります。非常時にどう対応するかという細かなシミュレーションが必要でしょう。

水道管路の老朽化し断水が頻発するためコストは増加する、人口が減っていく市町村では水道事業を継続すればするほど赤字を垂れ流すかもしれません。

水道がおかれている状況はとても厳しいものです。そのうえで震災が起きたらどうでしょう。同じく被災しながらも瓦礫をかきわけて給水活動し、水道復旧工事をするのは誰なのか。東日本大震災、熊本地震のときには水道に携わる公務員が誇りと責任をもって給水と復旧に当たりました。

首都直下地震や南海トラフ地震が30年以内に発生するという予測があるなかで、そうした体制をどう維持するのか。

これについては明確な役割分担が、新しい水道法のなかで明記されていくようです。

米大都市水道協会(AMWA)は「公営のままでも民間企業体と同等あるいはより優れた効率性、経済性で提供できる 」としており、新しいスキームに踏み出す意義が本当にあるのか。

水道法改正の目的は、水道の持続性の確保にあります。その基本を忘れ、短期的な利益をとりにいくことだけは避けるべきでしょう。「官から民を6にする」という目標達成のためだけに、動きを加速するのは馬鹿げています。