週刊「水」ニュース・レポート    2016年11月5日号

 

 

 

【今回厳選したニュース・レポート】

 

  • 「TPPと水道事業民営化の関係 もうからなければ水道は止まる?」
  • (アクアスフィア 橋本淳司)

 


野党が猛反発する中、与党が採決に踏み切りました。与党側は、TPP承認案などを来週8日にも衆議院を通過させたい考えです。一方、野党側は廃案を目指して徹底抗戦する構えです。

今日はTPPと水道事業民営化の関係について、整理してみようと思います。

この話をするときには、水道事業の持続、民間活用、TPPという3つの関係を見ることが重要です。

1つ目の水道事業の持続についての動き。

厚生労働省が、来年の通常国会に水道法改正案を提出します。今回の改正の大きな目的が水道の持続。老朽化対策の規定に関する項目案が、このほど開かれた同省の有識者会議「水道事業の維持・向上に関する専門委員会」(委員長・滝沢智東大大学院教授)で提示されました。

主な項目案をあげてみます。

 

  • 市町村を中心とする水道事業者に対し、努力義務として水道施設の戦略的な更新・耐震化や、給水人口に見合った規模の適正化(統廃合)を行うことを求める。
  • 水道事業に充てる人員や予算が限られる中小規模の事業者には、国が戦略的な老朽化対策の計画づくりを重点的に支援することを定める。
  • 国の財政支援を通じ、都道府県など大規模な水道事業者の職員やコンサルタントから官民の有識者を率先して派遣する。
  • 戦略的な老朽化対策を努力義務とする前提の項目案として、施設の構造・材質や取得年度、数量、設計図面などの関係データをまとめた台帳を作成する。

国が水道施設の老朽化対策を急ぐのは、水道の基幹施設に当たる管路で老朽化が進んでいる一方、更新される管路の割合(更新率)は落ち込んできたためです。全国にある管路ストック(総延長約66万キロ)のうち、法定耐用年数(40年)を超えたストックの割合は、12年時点で12.1%と8年前(06年)の倍に増加。更新率は14年時点で13年前(01年)の半分となる0.76%に減少しています。

では、これらの方針をどのように実施していくかということで、2つ目の民間活用が登場します。

水道事業を支える職員は年々削減されており、地方の小さな水道では職員だけで水道事業をやっていくことができなくなっています。そのような状況で、上記のような改革をせまられるのです。

民間活用を語るときに注意しなくてはならないのは、民間委託(公がイニシアティブを握って民間に仕事を委託する)と民営化(民間がイニシアティブを握る)はまったく違うのです。

民間委託も立派な民間活用であり、すでにほとんどの自治体で大なり小なりの民間活用が行われています。現在、広域化をはかりながら民間委託の範囲を広げるなどの改革が各地で進んでいます。

しかし、民間委託の事例は水道専門紙以外にはとりあげられず、とりあげられるのは民営化の話です。

たとえば10月23日の日本経済新聞には「企業はこれまで一部事業の受託でノウハウを蓄積してきたが、水道全体を経営できるかは未知数。リスクの把握や対処に関する知見も乏しい。検討中の法改正は、企業の要望を聞いてまとめた内容で、初の経営参入が実現する可能性は高い」と水道事業の持続は民営化ありきというような報道をします。

これは安倍内閣のかかげる「公から民へ」という政策を色濃くを反映させたものです。

ただ、民間企業としても不採算事業はやりたくないはず。

採算がとれなくても続けなければならない重要な役割が水道事業にはありますが、企業経営の考えにはなじみません。民間企業が手を出したいのは、中核都市以上の水道ということになるかもしれません。

3つ目がTPPとの関係です。民営化とTPPは同じ方向を向いているかというと、どうも違います。

麻生太郎副総理は、

「世界中ほとんどの国で、民間会社が水道を運営しているが、日本では、国営もしくは市営・町営である。これらをすべて民営化する」

と、2013年4月19日、米国の戦略国際問題研究所で行われた記者会見で発言しています。

ネット上の議論を見ても、「民営化されたら効率的になってよい」「民営化されたら業者間の競争によってサービスが向上する」「民営化されたら外資に日本の水をすべてもっていかれる」「民営化されたら企業の論理で水道料金が上がる」などの意見がありました。

ポイントは米国での発言であるということです。

これは米国のグローバル企業へのリップサービスだということです。ちょうど時期的に安倍総理がTPPへの参加を決めた時期でもあります。

TPPが発動するしないに関わらず、民営化された水道は企業買収の対象になります。東京の水道をフランスの会社が運営するということも十分にあるでしょう。

さらにTPPによって公共事業が自由貿易の対象になります。公共調達(GPA)というものがありますが、この約束に応じているのはWTA加盟国162か国中わずか17か国。

国や地方自治体は、水道とか道路や橋などの公共事業を、できるだけ自国の、地元の業者から調達したいと考えます。米国ですら「バイアメリカン法」があって、米国人は米国産品を買うことが奨励されています。

ところが、TPP協定の公共調達では、これまでと違って、国、地方の公共事業などは、加盟国の業者にも広く市場を開放して、自国の業者に与えているのと同じ条件で、平等に、入札、落札をしなければならないとされています。

こと水道に関して言えば、百戦錬磨のグローバル企業にとって有利な約束ですが、日本企業にとっては不利です。とりわけ日本企業は水道全体を経営した経験がありません。その部分は自治体が行っていたからです。

こうしたことを整理して考える必要があります。

水道事業の持続にとって必要なのは、人口減少などを考えながら、30年後の水道事業のあり方の将来図を描くことです。

そうした「企画」は、現在の水道事業者がやらなくてはなりません。

周辺自治体との事業統合、浄水場の閉鎖も行わなくてはなりません。維持にともなう料金改定についても開示すべきでしょう。

市民はその点を厳しく監視すべきですし、維持のためには料金上昇もあることを認識することです。民間委託の割合を増やせば水道料金は下がる、民営化すれば水道料金は下がる、民営化したら水道料金が上がるなど、いろいろなことが言われていますが、重要なのはコストの見える化です。水道事業者に徹底した情報開示を求めること。

そうした企画なしに民間委託は無理です。「民間に丸投げすればなんとかなる」と考える水道事業者が増えているようとの声も聞きますが、民間には水道を縮小させるノウハウはありませんし、地域の水道を将来にわたっている維持していこうという気持ちも薄いでしょう。

民間企業も単純にビジネスチャンスとは思わないことです。なぜなら水道は収縮へ向かうからです。ならば海外に活路を見出すという考え方がありますが、そこではグローバル企業との戦いになります。それどころかTPPが発動すると国内でもグローバル企業と競争しなければなりません。

水へのアクセスは生きる権利です。水環境は地域によって異なるため、その地域を知る水道事業者は市民が関与しなければなりません。

そのことを忘れ、儲かる、儲からないの議論に終始するのは危険です。

水道事業の持続をあらゆる方法で考えないと、人口減少社会での新しいモデルを企業利益のでない地域は「水道打ち切り」になるでしょう。