週刊「水」ニュース・レポート    2016年11月9日号

 

 

 

【今回厳選したニュース・レポート】

 

  • 「地球温暖化対策の『パリ協定』衆院本会議で可決承認」
  • (「NHK」2016年11月8日)

 


地球温暖化対策の「パリ協定」に日本もやっとのことで批准しました。

なぜ、ここまで遅れたかといえば、日本の政策が経済成長を「絶対的なもの」として進められているからです。批准すると経済活動に悪影響が出ると考え、ごねていました。

今日は、経済成長って何なのか、あらためて考えてみたいと思います。

「経済成長」や「GDP(国内総生産)」という言葉を聞かない日はありません。あらゆることが経済成長のために行われ、経済成長すればあらゆる問題が解決し、すべての人が豊かで、幸せになるかのように語られています。

はたしてそうでしょうか。

たしかに「成長」という言葉にはとてもよいイメージがあります。成長とは、人や動植物が育って大きくなること。

でも、この言葉にもう一つ意味があります。それは物事の規模が大きくなること、増加することです。経済成長の「成長」は後者の意味で使われています。

では、何が増加するのでしょうか。

それは生産量と消費量です。

実際、GDPとは「国内で新たに生産され、市場で取引されたモノやサービスの付加価値の合計額」です。新たに生産されたものですから、ものを大切につかっていたらGDPは増えません。市場で取引されたものですから、自分で野菜をつくって食べたり、おすそわけしたり、おさがりをもらったり、仲間とわかちあっていたらGDPは増えません。

生産や消費の前工程、後工程として増えるものもあります。それは資源利用量と廃棄物の量です。温暖化ガスもここに含まれます。生産のために石油・石炭、鉱物、水、木材などを使い、新しいものを購入し、古くなったものは捨てます。経済成長の負の側面として自然破壊やゴミの問題があります。

経済成長を続けるということは、痛みをともなうものなのです。

生産量と消費量と廃棄量と資源利用量が増えると前述しましたが、水の観点から言うと、生産には水が必要なので、水使用量もどんどん増えます。水をくみ上げたために、唯一の水の供給者である生態系に与えるダメージも大きくなります。

水を使うということは、生活排水、農業排水、工業排水も増え、それだけ汚染された水を自然界に戻すということでもあります。

無理に経済成長を続けると、自然環境へのダメージがすごく大きい。

世界的に見ると、地下水が枯渇に向かっていますし、閉鎖水域にある水が汚染され、ヘドロがたまっていくことによって、湖や湿地の面積が狭くなっています。森林資源もどんどん少なくなっています。

今年1年を振り返ると、日本でも、ゲリラ豪雨、台風、洪水の被害が発生しています。

この原因は生産活動によって温暖化ガスが増えたことによるとされています。すると「強靭化」という名の下に、洪水防止のために堤防を造る、土砂崩れしないように山をコンクリートで固めるなどの動きがあります。こうした仕事によって経済は大規模に動きますが、長い目で見ると誰が得しているのかと疑問になります。

もともと自然から得られていた恩恵を、どんどん得られなくし、八方ふさがりの状況に入っていく。わざわざ病を処方し、治すためにお金を使い、それを経済活動だと喜んでいるように見えます。これでは経済活動の規模は大きくなっても、ちっとも幸せにはなれません。

経済成長を続けていったときに、たとえば自然界から得られていた便益、自然がもたらすメリットが減ったり、福利厚生という部分がどんどん圧縮されていきます。成長はしたけれども分配はうまくいっていないので、格差がどんどん出てきます。

経済的には成長して、国のGDPはどんどん高くなっていっても、貧困層は増えるということが、中国やインドの都市部などでも起きています。先日ムンバイに行ったら、10年前とは見違えるようにビル群ができていて、一見すごく発展しているのですが、ビルとビルの間にスラムがたくさんできていました。

都市全体としては成長していて、お金も都市にあるのですが、その分配がうまく行われていない。どんどん経済成長させようとすると、基本的な人権に 関わる部分が圧縮されてしまう傾向が、いくつかの国から見えます。

日本の政策も経済成長を最優先に行われています。

これでは持続的な幸せは得られないでしょう。

「激」という文字のなかに「白」がありますが、漢字学者の白川静先生によるとこれは「しゃれこうべ」を表しているそうです。

古代に呪術を行うときに、司祭は「しゃれこうべ」を叩いて、呪術の力を強めたのだそうです。

「激」という文字には、水が勢いよく流れる様子が示されていますが、現代において激しくなったのは水循環です。

各地で起きる干ばつと洪水は水循環の激しさがもたらしたものです。

水の多い場所では気温が上がると、空気中の水蒸気の量が増え、湿度が高くなります。湿度が高くなると、雨が降りやすくなります。強い雨が頻繁に降るので、洪水になることも多くなります。

水の少ない場所では気温が上がることによって、土に含まれている水分が蒸発しやすくなるため、さらに乾燥が進み、水不足や干ばつが起こりやすくなります。

では、これを助長した現代の「しゃれこうべ」は何だったのか。それは人間の生産活動です。経済成長こそがすべてであるという短絡的な思考です。生産活動によって排出された温暖化ガスが水循環を早めたのです。激しくなった水循環を戻すには、生産活動を考え直さなくてなりません。

いうまでもなく地球は有限です。

有限の地球から無限に水や資源やエネルギーを取り出し、無限に汚水や温暖化ガスや廃棄物を戻し続けることはできません。

現在、人間の生産活動は地球1個分をはるかに超えて、近い将来、地球2個分になろうとしています。

そんなことをしたら地球環境は激変し、人間の営みは終わりを告げるでしょう。この辺りで、地球への負荷を減らす社会、おわりに経済成長を目指さない社会づくりを真剣に考えなくてはなりません。

経済活動は行いながらも、その規模自体は拡大していかない経済です。

そうしたなかで人間の生産活動も変わっていくことになるでしょう。