週刊「水」ニュース・レポート    2017年1月4日号

 

 

 

【今回厳選したニュース・レポート】

 

  • 「ネスレはなぜ『取水ゼロ』の工場をつくったのか」
  • (アクアスフィア 橋本淳司)

 


グローバル企業の水への取り組みは、日本企業に比べ真剣度が高い。

日本企業との最大の違いは地域住民に対する意識ではないでしょうか。企業が水を確保することで住民に不利益をもたらせば企業イメージ低下につながると考えられています。

世界的な飲料・食品メーカーであるネスレが節水対策に投じた金額は、ここ10年間で累計約4億スイスフラン(約420億円)に達します。

なかでも注目すべきは「取水ゼロ」の工場です。一般的に食品工場の多くは製品製造を現地の地下水に依存していますが、この工場では一切地下水をくみ上げていません。2014年にメキシコのハリスコ州の乳製品工場で取水ゼロを達成したのち、このノウハウを2015年の米カリフォルニア州工場、2016年のメキシコ・ハリスコ州の子供向け栄養製品の工場に展開してきました。

ではどのようにして取水ゼロで生産活動を行っているのでしょうか。

その秘密は、チーズや練乳などの乳製品の原料に使う牛乳から水分を取り出す設備にあります。

水蒸気として抽出して液体に戻した後、逆浸透膜という高性能フィルターを使ったろ過装置を通し、生産工程で再利用しています。牛乳の成分の約8割は水ですが、これまではその約半分が捨てられていました。

実際メキシコの乳製品工場では、この設備の導入によって1日当たり約160万リットルの水を節約できています。高価な設備ですが、メキシコは水不足で、水を調達するコストが高いため、早期に投資を回収できる見込みです。

では、なぜ水不足の地域に工場を建てるのでしょうか。

ネスレの製品は世界189カ国、1日に10億個が販売されていますが、食品は国や地域の味覚や嗜好に関係するため、消費地に近い場所に工場をつくる必要があるのです。その結果、水不足が起きている地域の工場では水をいかに確保するかが常に課題になっています。それも環境に負荷のない方法を選択しなくてはなりません。

もし、企業が周辺の水環境のことを考えずに、大量の水をつかったとします。周辺では、地下水が涸れてしまったり、川の水量が少なくなったりします。湿原が消え、そこに棲んでいた生きもののすみかが奪われることもあるでしょう。

あるいは工場排水をきちんと処理しないまま流していたらどうでしょう。うっかりしていたではすまされない問題です。

このように、企業の水利用が適切でないために、周辺の住民の水利用に悪影響を与えたり、水環境を悪化させることがあります。

こうなると周囲に悪評が流れ、メディアでも繰り返し報道されることになります。「不適切な水利用をする会社」「社会的な責任意識のない企業」というイメージが浸透し、それが企業ブランドの低下、株式の下落、商品の不買運動などに結びつく可能性もあります。

こうしたリスクを抑えるためにも企業は水環境への負荷低減を徹底すると同時に、水使用の実態を情報開示する必要があります。

ネスレでは「ウォーター・リソース・レビュー」と呼ぶ水リスク評価を独自に策定しています。

評価するリスクは大きく3つあります。

水の量や質といった「物理的リスク」、排水規制などの「規制リスク」、そして地域住民から訴訟を起こされる恐れがあるかという「評判リスク」です。担当者が貯水池や井戸がどこにあるかなど工場の周辺をくまなく見て回り、水を採取して水質をチェックするほか、地域の住民にヒアリングして悪い噂がたっていないかを探っています。

こうした動きはますます活発になってくるでしょう。

これから私たちは水の不足する世界を生きていくことになります。

国連は『世界水発展報告書』(2014年)において、「世界中で、推定7億6800万人が改善された水源にアクセスできずにいる。概算では、水に対する権利が満たされていない人は35億人に及ぶ可能性があり、25億人の衛生状態は改善されないまま」としています。

気候変動や水需要の増加により、いまから20年後には、世界の人口の少なくとも40%を超える人々が、水不足や水汚染によって十分な水の得られない地域に住むことになると予想されています。

企業の生産活動に水は欠かせませんから、企業はこうした状況に敏感に反応しています。