週刊「水」ニュース・レポート    2017年1月18日号

 

 

 

【今回厳選したニュース・レポート】

 

  • 「企業の気候変動対策うながすESG投資」
  • (アクアスフィア 橋本淳司)

 


1月11日、環境省は環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)情報を投資決定に反映する「ESG投資」に関するシンポジウムを開催、200人以上が参加しました。

関心の高さの背景には地球温暖化対策の新たな枠組み「パリ協定」の批准などを受け、機関投資家のESG銘柄への投資が増えていることなどがあります。

冒頭、山本公一環境相は従来の「低炭素化」ではなく「脱炭素化」を目指すことを明言しました。さらに「埋蔵量ベースの考え方はダメ」、「脱炭素化は企業の社会貢献を越えてもはや経営課題」と踏み込んだ発言。企業の気候変動対策は社会貢献でありリスク回避であるといえます。

洪水や渇水を企業リスクという視点で見ると、操業停止、原材料不足につながります。

CDP(企業や自治体の環境への取り組みを調査・評価・開示する国際非営利団体)の報告書には以下のような記述があります。

「降雨や干ばつのパターン変化は綿花収穫減とコスト増をもたらす。加えてハリケーンや大雪を含む激しい風雨は、2010年に米東海岸で当社のビジネスに影響」(GAP)

「平均気温の変化は光熱費の増加となりコストアップにつながる。2035年までに温暖化による空調費用は冷房で170%、暖房で11%増えると予測(年間1~2千万ドルのコスト増)」(スターウッドホテルチェーン)

「ハリケーンカトリーナによって200店舗の一時閉鎖を余儀なくされた。そのうち110店舗は物理的損害を受け、少なくとも6店舗は3か月以上閉鎖せざるを得ず、2店舗は廃止した。2004年から2012年までの9年間で、米国ウォルマートが異常気象による停電による被害で請求した保険料支払いは年間300万ドル。異常気象による被害は平均で、年間2千万ドルに及ぶ」(ウォルマート)

こうしたなかESGで成長する企業を選ぶ投資が存在感を高めています。

もとはといえば、2006年、ニューヨーク証券取引所においてアナン国連事務総長(当時)が「金融は世界経済を動かすが、投資判断過程で環境・社会・企業統治への考慮が欠けており、持続的な指針が必要」と説き、責任投資原則(国連PRI)を提唱しました。

近年は短期的な収益(ROI)を求めた投資が主流。それゆえ企業経営者は任期中のリターン最大化を株主に求められていました。

潮目が変わったのは2010年頃でしょうか。

きっかけの1つは2008年のリーマン・ショックでした。短期利益を追求した企業の破綻が相次ぎ、投資家も損失を抱えました。

また、かつて社会的責任投資(SRI)と言われた頃は、「倫理的な投資手法だがリターンが低い」と評価されていましたが、社会や環境を意識した投資は、財務リターンが高く、市場リスクが小さいという実証研究が大学研究者や金融機関実務者から発表されるようになりました。

国連PRIへの署名は、2016年4月末には1500社(総運用資産62兆ドル)まで広まり、ESGが投資分析・判断に欠かせない要素になりました。現在、欧米ではESGがしっかりしている企業は将来の環境規制に対応でき、不正を犯す恐れが少なく、持続的に成長する力を備え安定配当を見込めると評価されます。

日本でも15年9月、世界最大級の機関投資家である年金積立金管理運用独立法人GPIFが国連PRIに署名すると、急速にESGが意識されるようになりました。

PRIは投資先の決定にESGを反映させる指針を安倍晋三首相が国連で表明し「GPIFのESG重視」は国際公約となりました。

GPIFは約130兆円の資産のうち約30兆円をESGに配慮しながら国内株式に投資します。これがきっかけとなり、日本のPRI署名機関は2015年に33機関だったのが2016年には50機関に増えました。1兆円に満たなかった国内のESG投資額は、2015年に26兆6873億円に跳ね上がり、2016年には57兆567億円とさらに倍増しました。

ESGにおいてどこを重点的に評価するかは投資家によります。

環境について言えば、欧米では気候変動問題への取り組み姿勢を評価します。二酸化炭素(CO2)排出量が多い企業は将来、排出規制が成長の足枷になると考えられます。そうした企業への投資を控えます。

その実例が「脱石炭投資」。石炭火力発電所を保有するなど、石炭への依存が強い企業から投資を撤退する機関投資家が相次ぎました。

こうした動きをグローバル企業はむしろチャンスと捉えています。

昨年6月に米国サンディエゴで開催された「サステナブル・ブランド国際会議2016」では、多くのグローバル企業のトップが低炭素でなく「ゼロエミッション」を掲げました。

多くの経営者が「脱炭素社会を目指すことは企業が生き抜くためのビジネスチャンス」と語りました。

企業はESGの開示で長期資金を獲得できれば、短期の業績に振り回されずに済みます。黒字化まで長い時間を要する研究にも没頭でき、革新的な技術を開発できるというメリットがあります。