週刊「水」ニュース・レポート    2017年3月10日号

 

 

 

【今回厳選したニュース・レポート】

 

  • 「インドのトイレ事情をウォーターエイド・インドのスタッフに聞く」
  • (アクアスフィア 橋本淳司)

 


3月8日、東京都墨田区主催の「水の循環講座 すみだと世界をつなぐ水の大切な話」の第2回「トイレと下水~私たちが使った水・汚した水のゆくえ~」が行なわれました。

参加者はバスで砂町水再生センターへ。自分たちの家庭の台所、風呂場、トイレなどから流れ出た水が、きれいに処理され川に入っていく様子を見学しました。

その後、来日中のウォーターエイド・インドのマネジャーAvinash Kumarさん(以下アビナシュさん)からインドのトイレ事情について話を聞きました。

インド国民の60.4%(7億8500万人)の家にトイレがありません。

皆さんは、「もしもトイレがなかったら?」と考えたことがありますか?

どんなことが起きるでしょうか。

インドでは深刻な健康被害がでています。

毎年5歳未満の幼児14万人が下痢で死亡。

子供の40%が発育不良。

敗血症による妊産婦・新生児の死亡率も高い。

トイレがないことによる健康面への影響は甚大です。

ナレンドラ・モディ首相は「寺院よりもトイレの設置が優先」と位置づけ、「2019年までに全世帯にトイレを普及させる」ことなどを目標とする「クリーン・インディア」ミッションをはじめました。

しかし、道のりは遠い。

都市部に限ってみてもそうです。

2015年度(16年3月末までの1年間)に、都市部に250万戸のトイレを設置するという目標を掲げましたが、年度末までに設置できた数は132万にとどまっています(インド都市開発省発表)。

 

さらに「習慣」という大きな壁が立ちはだかります。

トイレができても使われず、「倉庫になった」ケースもあります。

なぜか。

野外排泄が慢性化しているからです。

インドの全人口の半分近くにあたる5億6900万人が野外で用を足し、公共施設が利用できる場合でも野外で排せつする習慣があります。

インド北部の5州(ビハール、ハリヤナ、マドヤ・プラデシュ、ラジャスターン、ウッタル・プラデシュ)で「野外排泄」について調査が行なわれました。

調査対象となった3235世帯のうち、トイレのある世帯は43%。

このうち「外で用を足すのを好む」と答えた家族が1人以上いた割合は40%以上。

その理由をたずねると、約75%が「快適」「便利」と答えました。なかには「野外排泄のほうが健康によい」という答えもありました。

野外排泄が健康に有害であること、環境汚染につながることの認識が浸透していないのです。

男女の考え方の違いもトイレ普及の妨げになっています。

男性はそのへんで用が足せます。

でも女性はプライバシーを保つ場所がないと用を足すことができません。

出かけた女性のあとを男性がついていくこともあり、女性は恥ずかしさと同時に恐怖を感じています。実際にレイプ事件も起きています。

女性のなかには自宅の床などで用を足し、その後、掃除をする人もいます。

自然と外出に消極的になり、学校に行かない少女もいます。

女性は家庭内のトイレを望みます。しかし、男性は望みません。そのへんで用が足せるからです。

そしてトイレを設置する意思決定をするのは男性です。資金や政治力によって状況の改善を図れる立場にいる人のほとんどが男性です。だからトイレがなかなか増えていきません。

カースト制度の残渣もあります。

すでに法律では禁止されているものの、トイレ掃除を強要されている人々もいます。

彼らは不衛生な便器を手作業で掃除することもあり、病気になりやすい。

アビナシュさんは、

 

  • 「トイレを作るだけでは不十分。作られた後にすべての人がこれを使用するように教育していくことが重要」
  • 「予算の使い道を設備だけでなく、トイレ教育に向けるべき」

と強調していました。

まったくそのとおりだと思います。

トイレを設置する予算として300億ドル(約3兆2400億円)以上が計上されれますが、「情報、教育、コミュニケーション」に回されるのは予算全体の8%にとどまっています。

これでは少なすぎます。

トイレが普及すれば、衛生が改善されて健康な生活ができること、子供が死んだり病気にならないこと、女性の生活レベル向上につながること。

こうしたことをあらゆる機会をつかって発信していくべきでしょう。

この日が「国際女性デー」だっただけに、女性にとってのトイレの重要さを強く感じるとともに、インドの男性にこのことを伝えていこうと思いました。

インドはIT大国。トイレよりスマホの数が多いとも聞きます。スマホの動画、トイレの重要性や使い勝手がわかるアプリなど、開発してみたくなりますね。