アクアコミュニケーターの知恵
水をめぐる争いのはなし | Story of the battle for water
不公正なナイル川の水配分

地図出典
「National Water Resource Plan 2017」,Ministry of Water Resource and Irrigation(2005)
地中海に流れ込む世界最長のナイル川の利用をめぐり、ケニア、タンザニアなどの流域国と、最下流のエジプトとで水紛争が起きている。
ナイル川は11カ国を流れる国際河川だが、最下流のエジプトが水利用の権利を握っている。
一般的に国際河川での水争いは、上流国の水利用が、下流国にストレスを与えることで発生するのだが、ここでは真逆である。
上流の10カ国は、水力発電、生活用水、灌漑用水など、自由な水利用を求めるが、エジプトがYesと言わない。
じつは、ナイル川流域の水配分は、2つの協定に基づいている。
1つは1929年にエジプトと英国で結ばれたもの。
英国、当事支配下にあったアフリカ4カ国を代表する立場をとった。
もう1つは1959年にエジプトとスーダンで結ばれたもの。
この協定の内容が、著しくエジプトに有利なのである。
まず、ナイル川の年間水量を推定840億トンと決める。
そのうち約100億トンは、蒸発によって失われるとして差し引く。
そして、残りの水を
- エジプトに555億トン(約75%)
- スーダンに185億トン(約25%)
と分配する。
他の国については、「要求があれば両国が共同対処する」(59年協定)
とあるものの、エジプトは「自国の取水に影響が出るような、上流国の水利用を拒否する権利」(29年協定)をもっているため、交渉に応じない。
第二次世界大戦前、英国はエジプトの綿花栽培を重視し、そのための水を確保するために、ナイル川上流地域で、エジプトの許可なく水を使うことを禁じた。
第二次世界大戦後、独立を果たした流域諸国は、現在もこの条約に縛られている。
「ナイル川は流域10カ国の重要な財産。どの国の所有物でもない」
と繰り返し主張しているが、エジプトは「いかなる水量の変更も戦争を招く」と警告している。
ナイルの水分配の不公正なルールは帝国主義の負の遺産とも言えるだろう。