アクアコミュニケーターの知恵
水辺を旅するはなし | Story Explore the waterfront
ぽこぽこ湧き出すうちぬき

名水百選(1985年・環境庁選定)は「おいしいかどうか」で選ばれたものではない。
選定の条件は、
- 1)水質・水量、周辺環境、親水性の観点からみて、保全状況がよいこと
- 2)地域住民による保全活動があること
が重要で、そのほか、
- 3)ある程度の規模であること
- 4)水にまつわるエピソードをもつこと
- 5)珍しかったり、有名だったりすること
も考慮される。
名水というと「湧水」のイメージが強いが、
- 湧水 75か所
- 河川 18か所
- 地下水 4か所
- 自噴水 1か所
- 用水 2か所
と、かたちはさまざまだ。
唯一の「自噴水」は、愛媛県の西条市にある、ぽこぽこと湧き出す水。
霊峰石鎚山の降水は燧灘(ひうちなだ・瀬戸内海中央部)へそそいでいるが、その途中、加茂川の東西に、約2000本の自噴井がある。
昔は鉄棒を地面に打ち込み、そこへくり抜いた竹筒を入れ、わき上がる水をつかまえた。
水は竹製のストローを通って、地表へ顔を出した。
この方法は、江戸時代から昭和20年頃まで行われたが、いまは、あなのあいたパイプを地下水層に打ち込んで水を導いている。
歩くと本当にあちこちに「うちぬき」があって、水の湧きだし方が、1つ1つ違う。
ぽこぽこの大きさやスピード、広がる波紋、水の流れが、1つ1つ違う。
ゆっくり大きく湧きだすのを見ると、心がほんわか和むし、規則正しくスピーディーに湧いてくるのを見ると、うずうずかき立てられる。
いくつか見ているうちに、自分の心持ちに合うものとそうでないものがあると気づいて、不思議な感じがした。
自分のなかの水の流れと、シンクロするものと、そうでないものがあるのかな。
自分にあったうちぬきを見つけると、いつまでも眺めていたい。
近所のおばあさんがやってきて、
「昔、日本一おいしい水に選ばれたこともあるんだよ」
と教えてくれた。
西条市では、全世帯の約8割が自宅に井戸を掘り、源水をそのまま飲んでいる。
全国利き水大会で、日本一になったこと(平成8年)を、地元の人は誇りに思っている。