アクアコミュニケーターの知恵
水辺を旅するはなし | Story Explore the waterfront
流氷の海でスケソウ漁を体験する
ひょんなことから羅臼でスケソウ漁を体験することになった。
午前6時、沖合の国後島の島影が朝日に浮かび上がるとともに、エンジン音を轟かせ、70隻あまりの船団が羅臼港を出発する。
張りつめた氷を割りながら、わずか10分ほどの間に、続々と出航する勇姿は、圧巻という言葉がぴったりで、さっきまでの寒さは興奮へと変わっている。
オホーツク海は、カナダ大西洋沿岸、ヨーロッパ北海と並ぶ世界三大漁場の1つに数えられる。
ここに突き出した知床半島は、水産資源に恵まれ、なかでも国後島と知床半島の間に広がる根室海峡は、とりわけ豊かな漁場だ。
その理由はいくつかある。
宗谷海流と東樺太海流が合流し、そこで発生したプランクトンの数が多いこと、海底の起伏が大きく魚が育つための栄養分が豊富にあること。
また根室海峡には暖流、寒流、両方が流れ込んで水流が早い。
水流に負けじと懸命に泳いだ魚は、健康的に身がひきしまる。
こうした理由が重なり、種類、量とも他に類を見ない魚の城下町が誕生した。
羅臼を代表する魚は時代とともに変わった。
1980年代にはスケソウダラの豊漁が続き、スケソウ御殿が海岸に並んだこともあった。
90年代にロシアがトロール船による収奪漁業を始め、スケソウの水揚げが減ると、代わってイカが主役になった。
とりわけ2000年9月中旬からは1日400トン前後の水揚げが続き、前年の60倍を超えたこともある。
イカのピークが過ぎると今度はサケの漁獲量が日本一を記録するようになる。
魚は季節によっても変わる。
春はウニ。
最高級の羅臼コンブをエサにして育ったエゾバフンウニは、日本近海で捕れるウニのなかでもっとも美味とされる。
夏はエビ。
とくに根室海峡では、シマエビよりも高級なボタンエビやブドウエビがとれる。
秋はサケ。
なかでもケイジ(鮭児)。
ケイジはアムール川を母川とし、秋サケ数千匹に1匹の割合で水揚げされる。
そして冬、流氷が海を覆うとスケソウの季節になる。
スケソウは、オホーツク海、ベーリング海などに広く分布する寒流系の魚だ。
羅臼で捕獲されるスケソウは、オホーツク海を広く回遊し、1月から3月にかけて、根室海峡で産卵する。
根室海峡は、もっとも狭いところでは幅25キロに過ぎないが、水深は1000メートル以上あり、この地形が、スケソウ漁には最高の条件となっている。
体験したのは刺し網量。
網を海中にカーテンのように沈め、そこに刺さったスケソウをとる。
引き上げるのは、前日に仕込んだ網だ。
船のデッキには5人の漁師がいて、ドラムで巻き上げた網を、一人がさばき、後ろの一人が網からはずし、さらにその後ろで3人が網を引き、きれいに船尾におさめる。
1本の刺し網を巻くのに2時間ほどかかり、寒風の中、ひたすら網をたぐりよせた。
仕事が終わるとダイ鍋である。
漁師ならではスケソウ料理。
スケソウをブツ切りして海水でじゃぶじゃぶ洗う。
その後、煮込んで、ミソを溶かす。
簡単にいえば、スケソウのミソ汁なんだが、これがうまい。
陸で同じように調理しても味が違う、陸では決して出せない味が、沖では出せるのだという。
流氷の海でダイ鍋を食べ、心底温まった。