アクアコミュニケーターの知恵
水をめぐる争いのはなし | Story of the battle for water
ユーフラテス川をめぐるあらそい
トルコは水をコントロールすることによって、周辺国への影響を強めようとしている。
1980年代後半、ジェイハン川とセイハン川の水をパイプラインでアラブ諸国に提供しようとした。
料金は1トン、2ドル。
トルコのねらいは、かつてのオスマントルコ領に水を配り、政治的影響力を拡大することにあった。
だが、打診されたアラブ諸国も、それがいかに危険な誘惑かを知っていた。
水が不足している国がいったん他国から水を買ってしまうと、その国に依存することになる。
水価格が上昇しても、水を買い続けなくてはならない。
国同士の関係が悪化すれば、水を止められてしまう可能性もある。
水は喉から手が出るほど欲しいが、安全保障という観点から、アラブ諸国はトルコの打診を断った。
トルコ内には、チグリス川、ユーフラテス川の源流がある。
古代文明を生んだ2つの河川は、トルコ南東部を源流としてイラクへ、あるいはシリアを経由してイラクへと流れる。
トルコ、シリア、イラク間では、水資源の分配がたびたび問題になっている。
1970年代、トルコ南部に「ケバンダム」、シリア北部に「タブカダム」ができた。
その結果、ユーフラテス川下流は異常渇水に陥り、イラクとシリアの穀物生産量は減った。
このときは、シリアに入った水をシリア6、イラク4で分配するという取り決めがなされた。
1990 年代に入ると、トルコはシリアとの国境付近にアタチュルクダムを建設した。
砂漠に水を引き、多くの綿花畑ができた。
しかし、下流域は乾燥が進み、農地では塩害が発生した。
シリア、イラクは水不足は深刻になるばかりだ。
トルコには、水を外交カードと考える人が多い。
「シリアやイラクとの関係性が悪化したら、水資源を切り札に圧力をかけるべき」
という声をよく聞く。
1991年の湾岸戦争のときには、アタチュルクダムを閉めて、イラクを水不足に追い込むプランもあった(実行はされなかった)。
水が国家間の政治のかけひきに使われるのは大変に危険なことだ。
水資源をもつ上流域の国が、下流域の国の命を握ることになるからだ。
水を交渉の道具に使えば、交渉は必然的に歪められる。
不利な条件をのまされた国のストレスは高まり、無益な紛争・戦争へとつながる。