アクアコミュニケーターの知恵

 

 

地域の水循環のはなし  |  Story of the water cycle in the region


 

水循環基本法の変遷

 

水循環基本法案が、今国会に提出される。

2012年1月28日の産經新聞には、こう書かれている。

 

「外国資本による水源地や周辺地域の買収・乱開発が進む中、民主、自民両党27日、国内の水資源保全に向け、水循環基本法案を今国会へ議員立法として提出する方向で調整に入った。

水資源行政を統括する水循環政策本部を内閣官房に設置することが柱となる。

法案では、水を「国民共有の貴重な財産」と明確に位置付け「国と自治体が水関連政策を策定し実施する責務を持つ」と明記。

水循環に影響を及ぼす利用について、政府に適切な規制や、財政上の措置を求める。

水源地となる森林や河川、農地を整備する必要性も指摘する」

 

さて今回は、この法案がどのように生まれてきたのかを振り返っておこうと思う。

 

生命や財産を守る水の重要性を位置づける基本法の制定を目指し、超党派の国会議員や学者、市民らでつくる

「水制度改革国民会議」

設立されたのは、2008年6月3日。

河川の生態系を守ったり安全な水を飲むには、河川だけでなく森林など周囲の環境を保全する必要がある。

しかし、水道や河川、森林など対象によって法律が分かれている。

複数の省庁にまたがる問題が発生したとき責任が不明確で対応も遅れがちだ。

 

代表に就任した松井三郎・京都大名誉教授は

「いくつもの法律と省庁にまたがり、すき間から激しく水漏れしているんです」

と、水行政の現状を表現した。

 

2009年秋、水制度改革国民会議は、水循環政策大綱と水循環基本法の案をまとめ、新しい水循環社会の構築を提案。

その趣旨は、子孫によい水環境を残すことにあった。

 

そのため、調査と監視を行う組織をつくり、事業を担当する組織と協力して、水環境政策を展開する。

人への影響だけではなく、生態系への影響も考慮に入れて制度やシステムを構築していこう、という話であった。

 

2011年1月、水制度改革国民会議は、衆議院第一議員会館で「水制度改革を求める国民大会」を開催。

大会には、多くの国会議員も参加していた。

党の枠を超えて健全な水循環システム構築について議論した。

 

要望書では、

「縦割りの水制度と水管理体制は人と水のあるべき姿を歪め、水循環サイクルを破壊して久しい」

と水行政が複数の省庁にまたがる現行の体制を批判した上で、

「地方主権的かつ統合的な水管理システムの実現を期する水循環基本法の早期制定と抜本的な水制度改革の断行を求める」

と基本法の重要性を強調した。

 

日本では、水に関係する省庁は多く、それぞれが部分的に所管している。

 

  • 環境省・・・・・水質、生態系、廃棄物、浄化槽
  • 国土交通省・・・水資源、河川、下水道
  • 厚生労働省・・・水道
  • 農林水産省・・・農業用水、水産
  • 経済産業省・・・工業用水、水力発電

このため省庁間にまたがる課題には、対応しにくい。

たとえば、

 

  • 森林の保全・整備等の水源保全対策
  • 水質保全対策
  • 地下水の適正利用

などは、いくつかの省庁にまたがる問題で、管理や保全が適切に行われていないケースがある。

 

そのため水を司る横断的な組織(官庁)をつくり、そこで水問題を取り仕切る構想だった。

 

ところが、次第に情勢が変わってきた。

 

各省庁からの反論が相次いだのである。

「基本法といいながら、法案の中身は理念にとどまっていない」

「条文ごとの慎重な検討が必要だ」

という声が上がった。

 

たとえば、法案に盛り込まれていた

 

  • 河川横断構造物の除却義務付け
  • 雨水の地下浸透を阻害する行為の禁止

などが、

「理念にとどまらない」

と、やりだまに挙げられた。

 

官僚は既得権益を守るため、法案を「骨抜き」にしようと動き始めたのである。

 

2011年6月30日、民主党の水政策PT(川端達夫座長)は「水循環基本法案」に対する中間とりまとめ案を提示。

「水の統合的管理」は、「総合的水循環調整」に変更されていた。

省庁縦割りだった水管理を、統合的に行う当初目的からは大幅な後退。

 

第三者機関などによる水環境監視や間接強制、公共事業中止後の措置などさまざまな規制については、個別法で定めるとして削除。

また、水を統合的に管理する水管理庁も設置せず、新たに総合調整機能を持つ水循環本部設置を盛り込んだ。

統合的管理の文言がすべて、総合調整という文言に代わったことについて、

「少なくとも統合的管理という言葉はどこかで盛り込むべき」

との声も相次ぎ、若干の修文を検討することになった。

 

当初の水循環基本法案では、地表水だけでなく地下水、海水などをすべて「公水」と定義し、国と流域自治体が統合的管理することが目的だった。

しかし、地下水を大量に使う産業界の反発や、農業用水の利水権など所管法令との整合性を理由に疑義を唱える各省庁、さらには民主各部門会議からも異論が相次ぎ、強制力を強めた水の統合管理を目的とした法案を断念した。

 

水利用と保全についての新たな理念法といっているが、妥協の産物の印象が強い。

 

「いくつもの法律と省庁にまたがり、すき間から激しく水漏れしている」行政を改革しようという思いだった松井三郎代表の心境はいかばかりか。

しかしなが、らひとまず理念法をつくって外堀を埋め、具体策は少しずつ議論していくというのも現実的な流れだろう。

今後に注目したい。

 

 

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