アクアコミュニケーターの技術

 

 

aqua-solutions 06

2012.6.5

 

 

生態系との共生を図る持続可能な水マネジメント



1. 人間社会の発展は水とともにあった

 

<ローマ水道>

人類の営みは、川の近くの半乾燥地帯ではじまったという。

そこで生活に必要な水を得る。

水場とする動物、棲息する魚を狩猟する。

豊富な水に支えられて植物が茂る環境は、食料調達だけでなく、寝床としても隠れ家としてもこのうえないものだった。

この時代、水は自然の循環のなかにあり、それを必要に応じて使ったのである。

やがて農耕がはじまる。

農業用水も肥沃な土地も、いずれも川からもたらされた。

上流から流され堆積した土砂によって肥沃な土地が形成されたのである。

 

農耕が盛んになると、水利用に1つ目の変革が起きる。

それまでは水を得るために水辺まで移動していた人類が、反対に、自分たちの方へ水を引き寄せたのである。

古代文明が発展した地には、灌漑用運河、貯水や分水を目的とした小さなダム、淡水を重力の力で運ぶ水路、清潔な水と汚水を分離するための汚水処理システムの痕跡が残っている。

水循環への人為的な操作はさらに続く。

水道の起源は、紀元前312年のローマ・アピア水道と言われる。

ローマでは、その後300年の歳月を費やし440キロメートルの水路が建設され、帝国は大いに発展した。

 

2つ目の変革は、物理法則に逆らうことであった。

古代から中世までの水道は、土地の高低差によって導水し、配水した。

高いところで取水し、土地の傾斜を利用して配水していた。

位置エネルギーによる排水である。

 

ところが産業革命期に、蒸気機関が発明されるとポンプでの揚水や導水が可能になり、水道網は低地から高地へ、また水源から遠く離れたところまで伸び始める。

同時に汚れた水を浄化する技術も生まれた。

水を浄化し、給水する近代水道の起源は、19世紀の英国スコットランドのグラスゴーといわれている。

産業革命の最中、グラスゴーの郊外ペーズリーで、繊維工場を営んでいたジョン・ギブ。

ギブは繊維を大量のきれいな水で洗わなければならなかったが、近くの川の水は白濁し、使用することができなかった。

そこで川の水を導水し、礫槽と砂槽を通し、浄水にした。

浄水方法は、より高度に、より複雑になった。

緩速ろ過が急速ろ過へ、さらには膜ろ過、オゾン殺菌へと進化し、エネルギー使用量は増えていった。

これによって安全な水の供給を受ける人の数が飛躍的にのび、都市の拡大につながったのである。

しかし、人口増加にともない水需要は増える一方だ。

とりわけ食糧を生産する水が不足している。

マギル大学ブレース・センターで水資源マネジメント研究に従事する研究者たちは、2025年の世界の食料需要予測に基づき、食料生産を増やすためには、さらに2000km³の灌漑用水が必要になると試算した。

2000㎦という量は、ナイル川の平均流量の約24倍である。

また、現在の水使用パターンを前程とすると、2050年の世界の予想人口が必要とする水の量は、年間3800㎦と計算される。

これは現時点で地球上で取水可能とされている淡水の量に匹敵する。

つまり、人間だけが地球の淡水を独占しないとやっていけないという予測である。

こうした数値を見れば、誰も直感的に「やばい」と感じるはずだ。

だってほかの動植物は息絶えるのだから。

現在人間が享受している自然からの恩恵は失われるだろう。

そうしたことから現在、人類はあらたな魔法の杖を手に入れ、3つ目の変革への岐路に立つ。

それが海水淡水化だ。

 

<海水淡水化>

これまでの水利用は、陸地にある淡水に限られてきたのだが、水資源の枯渇が懸念されるようになり、豊富な海水に目を向けたのである。

淡水のないところに都市がつくられる。

人類は、これまで経験したことのない領域に足をふみ入れようとしている。

しかしながら海水淡水化は1トンの水をつくるのに4キロワットという莫大なエネルギーが必要だ。

最近では1日に100万トンの水をつくるメガプラントがあるが、この場合、400万キロワットの電気を使用することになる。

当然、コストもかかる。

都市の基本インフラを維持するために、莫大な費用がかかるため、経済成長を宿命づけられていることになるが、何を生産するにもその水を使うのだからコスト高になるので製品の競争力は鈍るだろう。

経済成長が鈍れば、インフラを支える費用は住民の肩に重くのしかかることになる。

そうなると住民は街から逃げ出す可能性もある。

発電には化石燃料を使用するケースも多く、その結果、地球温暖化にもつながり、水不足を解決するために地球温暖化を加速し、水循環を狂わせることになる。

淡水資源をこのまま使い続けていったら生態系との共生は図れず、そこから受けていた恩恵を受けられないので、人類は生きていくのがむずかしくなるだろう。

かといって、海水に活路を見出すのも危険なのである。

これまでとは違った水管理の思想が求められているのではないか。

 

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